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JTCの社員が「新規ビジネス、デジタルビジネス」にめっぽう弱い理由

はじめに

筆者はDX教育を社内外で多く実施しており、特に社外の企業や官公庁、自治体のDX担当者から話を聞いたり、エグゼクティブセミナーに参加して社外のDX責任者とディスカッションする機会が多い。そのような機会を通して感じるのは、多くのJTC(日本の伝統的大企業)が本業で悩んでおり、新規ビジネスやデジタルビジネスに取り組む動きが活発であることだ。

でも、現実は厳しい。専門の組織を立ち上げたものの、任命された担当者や責任者がノウハウを持ち合わせておらず、コンサルタントに丸投げしたり、コンソーシアムに参加するだけだったり、人材育成のためのイーラーニングに多額の予算を投じてしまうだけだったりする。金や手間をかけただけで、良いビジネスはできず、また新しい取り組みに走るという試行錯誤が続いている。

その根本的原因だと思うことは、「JTCの社員が新規事業やデジタルビジネスにめっぽう弱いこと」である。そこで本稿では、その理由を4つの観点から考察していく。筆者は財閥系生命保険会社のデジタルオフィサーをしながら、ソフトウェア企業、マーケティング企業、新聞社、教育企業、官公庁、自治体など複数の企業や団体のDX顧問をボランティアで行っている。

またデジタルビジネス発想研修を5年に渡って行っており、教育企業ではデジタル商材を開発しスケールさせている。このように筆者はJTCの企業コンサルティング経験とスタートアップや中小企業のコンサルティング経験を両方持つ。この経験からJTCの社員はなぜデジタルビジネスが苦手なのか紐解こうと思う。

JTC大企業が新規ビジネスやデジタルビジネスに弱い4つの理由

筆者のこれまで仕事経験やスタートアップの人たち、個人事業主の人たちと飲んで話した結果から以下の4つの理由が大きいと思っている。

1. 切実さの欠如(いわゆる困ってない)

JTC大企業の社員は、毎月安定した給与が保証されているため、「商売をしないと食べていけない」という切実さがない。これは、常に必死でビジネスアイデアを考え、デジタル技術を活用しようとするスタートアップや個人事業主の気迫とは大きく異なる。あたりまえのことだが、「生活がかかっていない」ため、新規事業に本気で取り組むモチベーションが湧きにくいのだ。

2. 最終消費者との距離

JTC大企業では、業務が細分化され、縦割りの組織構造になっているため、最終消費者との距離が遠い。異なる部署の社員が勝手に消費者と接触することは難しく、顧客ニーズや顧客の抱える課題、提供すべき価値を直接把握することができない。一方、スタートアップや個人事業主は最終消費者に近い位置にいるため、リアルな市場情報を持っている。

3. 裁量の制限

JTC大企業の社員は、自分の考えで自由に行動したり、計画を変更したりすることが難しい。常に上司や組織の意向に縛られ、がんじがらめの状態にある。若手社員の斬新なアイデアも、中高年社員の古い価値観で否定されがちだ。対照的に、スタートアップや個人事業主は自らの裁量で方針を柔軟に変更しながら、ピボットを繰り返して前進することができる。

4. 既存事業の影響

JTC大企業では、会社の既存事業と関連性の薄い新規事業は、社内で優先度が低くなりがちだ。既存事業の延長線上にない挑戦は、評価されにくく、進展しにくい。この点は、スタートアップにも当てはまる可能性があるが、個人事業主であれば、新しい要素を組み合わせて差別化を図ることも可能だ。

JTC大企業が新規事業やデジタルビジネスで躓く理由

以上の4つの観点から、JTC大企業の社員が新規事業やデジタルビジネスに弱い理由が分かるだろう。JTC大企業は、もともと現状の事業を拡大・効率化することで成長を遂げてきた。その組織の性質上、ピボットを繰り返しながら新規事業を立ち上げていくことには不向きなのだ。

対策

しかし、JTC大企業にも新規事業を成功に導く方法はある。それは社員が自分の力でプロダクトを作り、消費者に売りぬく経験を繰り返すことだ。つまり個人事業主的立ち位置を経験しアジャイルに繰り返し土地勘を養う。

これは商売人感覚を尖らせる。それには社外に一回放り出すことが手っ取り早い。そのような人材を作り、既存事業から独立した新規事業部門を設置し、これら人材を配置することで、個人事業主の集団のような環境を整えると面白い。

つまりアイデアと行動力のある個人事業主社員に権限を委譲し、失敗を恐れずにチャレンジできる風土を醸成することが重要だ。こういう個人事業主的社員を何人も作りトラディショナル社員と融合させて、社内風土を変える。こういう取り組むが必要なのだと思う。

まとめ

JTC大企業には、豊富な資金力や信用力、販路などの強みがある。それらを活かしつつ、本稿で指摘した構造的な弱点を克服することで、新規事業を軌道に乗せることは十分に可能だ。ただし、そのためには経営層の強力なコミットメントと、挑戦を奨励する企業文化の醸成が不可欠である。

JTC大企業がレガシーな体質を脱却し、デジタル時代に適応した新規事業を創出していくためには、組織構造や人材戦略、企業文化など、多岐にわたる変革が求められる。

その道のりは平坦ではないが、生き残りをかけた挑戦を続けることで、JTC大企業もイノベーションを起こすことができるはずだ。内なる変革と外との協業を両輪で進めながら、新たな価値創造に果敢に取り組んでいくことが、JTC大企業に課せられた使命だと強く思う。

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