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JTCは自社製品にこだわって「プロダクトアウトなDX」を考えてしまう件

はじめに

筆者は生命保険会社のCDOとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

この中で、JTCの事業会社、特にメーカーからよく聞かれることの一つに「社員から新規事業が出てこない。出てきても魅力がない。他社の真似っぽいのが多い。どうしたら良いかわからないので教えて欲しい」ということがある。

筆者の考えでは、それは自社の得意な製品、技術、売り方にこだわっているからだと思う。自分たちが得意なものは考えやすいし社内に提案しやすい。しかしそれでは今までと同じようにしかならない。これを「プロダクトアウト」の呪縛と呼ぶ。

重要なのはB2BであってもB2Cであっても

①消費者や顧客が「良いな」と思うものを徹底的に考え、
②差別化を考え(ここでデジタルやデータを使う)
③ビジネスモデルを考える

ことである。この順番なら顧客価値が高いマーケットインの思考法になる。

プロダクトアウトの呪縛

プロダクトアウトの思考法に陥ると、自社の技術や製品にとらわれるあまり、市場のニーズや顧客の真のニーズを見失ってしまう。その結果、新規事業のアイデアが出てこなかったり、出てきたアイデアも他社の模倣に過ぎなかったりする。これではイノベーションを起こすことは難しい。

また、プロダクトアウトの思考法では、自社の製品や技術をどう活用するかばかりを考えてしまい、顧客の課題解決や価値提供に目が向かない。そのため、顧客にとって魅力的な製品やサービスを生み出すことができず、競争力を失ってしまう恐れがある。

JTC社員のビジネス発想

そんなことない。うちではマーケットインで考えているというJTC大企業の役員が言い張っても筆者はそれは違うという根拠がある。筆者は全国の企業に「ビジネス発想研修」を6年に渡って行っており、多くのJTC社員のビジネス発想を聞いてきたからだ。その場では多くの社員が得意になってプロダクトアウトのビジネスを語ってきたのを講師として修正してきた。

例えば、筆者は有名な精密機械メーカーグループの販社のビジネス発想研修の講師をしているが、この会社では度々得意分野であるカメラやセンサー技術を新規ビジネスに活かそうと社員が発案する。しかしこれが結構な頻度でプロダクトアウトなのだ。そのような「プロダクトアウト」的に提案されたアイデアに以下のような内容があった。

①自動車の天上にセンサー付カメラを搭載し、街の状況と危険な交差点などを常時撮影しデータ化する(Google mapの自動車っぽいやつ)

②このビッグデータを分析してさまざまな街情報のプラットフォームに使い、利用者を募って手数料ビジネスにする

③利用客は市町村や地域の安全を守りたい地元企業をスポンサーにして広告収入を得る


これに筆者は(優しく)ダメ出しした。そもそも顧客価値が低いか、無いし、金を出させる市町村に新しいものを評価できる職員はほぼいない。また地元企業は不確かなサービスに広告は出稿できない。そもそも自動車にカメラセンサーをつけるなんてコストがかかるし誰がカメラのコストや自動車の維持費を出すのか考えが弱い。

どうしてもこのスキームをするなら市民を巻き込んだ方が良い。危険な場所を撮影してくれたらポイントを付与してAmazonギフト券に交換できるだけでポイ活好きな方が集まってくるのでビジネスとして検討価値がある。

プロダクトアウトからの脱却

では、プロダクトアウトの思考法から脱却するにはどうすればよいのだろうか。筆者は以下の3つのステップを提案する。

①顧客の課題や潜在ニーズを徹底的に理解する

まず、自社の製品や技術を活用する前に、顧客が抱えている課題や潜在的なニーズを深く理解することが重要だ。顧客のビジネスや日常生活に入り込み、どのような問題を抱えているのか、どのような価値を求めているのかを徹底的にリサーチする必要がある。

②顧客の課題解決に必要な製品サービスを考える

次に、顧客の課題を解決するために必要な製品やサービスを考える。この際、自社の既存の製品や技術にとらわれず、顧客の課題解決に最適な手段を自由に発想することが大切だ。既存の製品や技術を活用できるのであれば、それも一つの選択肢として検討すればよい。

③ビジネスモデルを設計する

最後に、顧客に価値を提供し、継続的に収益を上げるためのビジネスモデルを設計する。単に製品を販売するだけでなく、サブスクリプションモデルやシェアリングエコノミーなど、多様なビジネスモデルを検討することが重要だ。ここにデジタル用語やDXビジネスの知識が必要になるので勉強して欲しいと思う。

まとめ

JTCでは、「新規ビジネスが発想できない」のではなく、検討の方法が悪いのだ。プロダクトアウトの呪縛から離れるにはB2BであってもB2Cであっても①消費者や顧客が「良いな」と思うものを徹底的に考え、→②差別化を考え→③ビジネスモデルを考えることである。この順番なら顧客価値が高いマーケットインの思考法になる。それをJTC企業は理解しなくてはならない。

JTCは、自社の強みを活かしつつ、顧客の課題解決に真正面から向き合う姿勢を持つことが求められる。そうすることで、プロダクトアウトの呪縛から解き放たれ、新たな成長の機会を掴むことができるはずだ。

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