017: 『夕日はまだ沈んでいなかった』

 約20年前の西暦2000年の夏のお話。僕がまだ20代最後の歳から一年前の頃でした。地方の大学に入り直した年の夏休みに、一人で行き当たりばったりの車中泊の旅をしていました。旅に出るきっかけも、まだよく思い出せませんが、たしか異常な理由です。科学的に現実的な理由としては統合失調症の陽性反応が激しくなり、何かにせかされて住んでいるアパートから一時避難と言うか、何かから逃げ隠れする為に車で旅に出ていました。夜はホテルなどにも泊まらず三日ほど過ごしました。

 単身田舎の人里離れた海沿いの道路に車を泊めている間に僕はその時すでに1年前の1999年に亡くなった祖母と霊感で会話をするようになっていました。霊感で話をしている相手は亡くなった祖母だけではなく、初めて知る祖母に紹介をされた祖母の知人や、あの世の観音菩薩や不動明王などの仏様とも会話をするようになっていました。

 たまたま、車中泊で駐車していた場所の近くには『道の駅』があり夜中に外灯も歩道ないような海辺の道路を歩いてトイレを借りに歩いて通っていました。何かの強迫観念に迫られていました。車のエンジンをかけて排気の熱を出すことで誰かに見つかることも避けたかったのです。『道の駅』にはある歴史的な事件の慰霊碑がありました。あとで大学に戻ってネットで調べたら『留萌沖三船殉難事件』の慰霊碑でした。昼は息をひそめ車の中にいて、深夜は車からの道で、除霊だったか、浄霊だったか、を行うように祖母の知人である呪術者に指示されて『早九字護身法』で呪文を唱えて九字を切りながら『道の駅』まで歩いて行きました。『道の駅』でトイレに入り、水で体を拭いた後に慰霊碑で合掌し、海に向かって全身全霊で精神を集中させて九字を切ります。また九字を切りながら車に戻ってくることを繰り返しました。そんな車中泊の旅も終えてアパートに戻ることにしました。

 三日の間はほとんど食べ物らしいものを食べていませんでした。不思議と空腹にはならなかったのです。最後の昼に『道の駅』で地元の潮汁を一杯食べてから帰りました。途中で理由もわからず花火とタバコを個人商店で買い求め帰宅を急ぎました。祖母の知人の術者からは車でスピード違反は一切禁じられてしまい、いつもより時間が掛かってしまいました。それでも、日没までにアパートに着かないといけなかったのです。

 僕が深夜に九字を切った行為は悪霊を払い土地を浄化する行為でした。人ではない者が持つチカラ(能力)を大量に使うことで寿命を大量に消費してしまい残りの寿命が残り少なくなったそうです。次の新しい寿命を受け取れるけれども、そのためには夕日が沈むまでに居住するアパートに着いて深く眠りにつくことで次の新しい命に繋がるのだそうです。ただし、急いでスピード違反をして悪いことをすると寿命が削れてしまう為、アパートに着く前に寿命が尽きて自損事故などで命を失ってしまうので、制限速度以内で走行し日没前に到着しなければなりません。アパートに着く前に夕日が沈んでしまえば時間切れで寿命が尽きてしまいます。

 なぜ、昼近くまで寝ていたのだろうと後悔もしながら車を制限速度以内で走らせていたら、夕日がだんだん沈んでいき日の入りが始まってしまいました。
 もう駄目だ、間に合わなかったと思い「終わった!」と車の中で叫んだら、目の前がだんだん白くなって目が見えなくなっていきました。自分はもう死ぬ、自分の人生は終わると諦めました。瞬きをすると、パッと目の前の風景が変わり車はアパートの近くの国道を走っていました。前の車に追突しそうになって慌ててブレーキを踏んで間一髪のところで事故にはなりませんでした。夕日の位置はまだ高く日の入りは始まっていませんでした。混乱をしているうちに帰り道に入る道を過ぎてしまい慌てましたが、速やかにアパートに着くことができました。急いで部屋に布団を敷いて、夕食も摂らずに布団の中で服を脱いですぐに寝ました。

 僕はあの時、この世界線のパラレルワールドに転位してきたのだろうか?

 僕は、このあと、ひと眠りしたような気がします。それから「013: 『頭のおかしな男の昔話②』」に話が続いていることを思い出しました。

 文章が散らかって乱筆乱文になってしまい失礼しました。よろしければイイネを押して頂ければ執筆の励みになります。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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