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子どもたちの変化を考える その1

今まで塾のブログを時々書いてきた。そして気が付いた。自分は長い文章を書きたいのだと。意見を発信したいのだと。教室内部のことだけではなく、子どもたちを取り巻く社会の状況を分析したいのだと。業務連絡とかちょっとした勉強のコツとかを書こうとしても、どうしてもそこに大量の思いや考えを込めてしまう。意見や思いはnoteの方に移して、従来の塾ブログは業務連絡や事実の羅列や記録に特化しようと決めた。

生徒が教室に持ってくるカバンの中に、テキストやノートや筆記具だけではなく「世の中の空気」を詰めてきているのだと考えている。子どもたちの変化を通して社会の変化やあり方を考えたい。またこちらに書くのを移した理由がもう1つある。それは非道徳的なこと、反ポリコレ的なことも綴っていきたいからだ。どうもコロナ禍以降の子どもを取り巻く空気は怪しいものがある。その矛盾を突くには塾の名を直接冠した場所は好ましくないと考えた。

また私は人口問題とスポーツに大きな関心がある。それらについての考えもこちらに書いていきたい。教育問題=人口問題であるし、昨今議論されることが多い部活動を絡めるとスポーツの内容も子どもたちに繋がる。そういったことについて書いていこうと思う。

2010年秋のことだった。私は当時2教室運営の学習塾の企業で働いていた。週に4.5日はN校と呼ばれる後から出した校舎に出勤していた。残り1日は本部校の授業を受け持っていた。その週1の本部校での話から始めていく。夏休みが明けて以降、その校舎の中3の授業を担当していた。前半が学力が劣る下位クラスで後半が上位クラスだった。確か12人程度のクラスだったと思う。2つの中学校に通う生徒がいた。8人くらいいたのがA中学校の生徒、市の中心部から離れている長閑な風景が広がるエリアが中心の学校だ。市街化調整区域なのかマンションやアパートはほとんどない。大きな一軒家が多くて3世代で住んでいる家庭が非常に多かった。残りの4人はB中学校。こちらもA中の隣で似たような地域ではあるのだが、1つ大きな相違点があった。それは大きな団地が学区を占めていたことだ。私たちの教室もその団地の一角にあった。治安が悪いという雰囲気までは受けなかったが、落書きや若者が深夜にたむろする様子は日常茶飯事だった。

それに伴って中学校の雰囲気も違った。A中学校は皆がほんわかしていた。体育祭を見に行ったことがあるが祖父母を含めたギャラリーが全員を応援する空気があった。苗字の被りが非常に多く「あの生徒とあの生徒は従兄弟」のような親戚関係も非常に多かった。B中学校はやや荒っぽい学校だった。やはり体育祭に伺ったことがあるが、教員も保護者も競争を煽る。「負けるな!」「根性見せろ!」のような声が飛んだ。A中よりも祖父母の割合は少なく、反対に水商売系のメイクをした母親、またKARL KANIのスウエットを着た金髪の兄姉が多く観覧にきていた。

9月から授業を担当して3週目くらいのことだった。当時は21時40分に授業を終えていたが希望する生徒は22時30分までは自習を認めていた。小テストに受からない場合は2時くらいまでの居残りもさせていた時代である、たまたまB中の女子3人が居残りのメンバーになった。私は教卓でその日の授業報告を書いていた。

「先生、向こうの校舎と比べて何か違いはありますか?」

向こうの校舎つまりN校は本校よりも15㎞ほど名古屋の都心に近い方にあった。素直に違いを彼女たちに返した。

「こっちの方が田舎って感じがするな。でもA中の子たちとB中の子たちはちょっと違うよな。その違いをまず俺は面白く感じてる」

「えっ?それは何ですか?」

「キミたちB中は数が少ないから静かにしているけど、本当は話したいことがたくさんあるんじゃないかって。A中の子たち真面目だけど休憩時間は賑やかだよね。でも私の感覚からすると『中3にしては幼い内容で盛り上がっているな』って思いがある」

「えっ?」

「キミたちは多分もっと大人っぽい会話をしたいのだろうけど、多数派の空気に気圧されているんじゃないかって。もっと恋愛とか将来とかオシャレとかを話したいんじゃないの。場合によってはヤンキーっぽい男子のこととか、両親が夜中もいなくてたまり場になっている友人のこととか」

「マジで!たった数回でそれに気づいていたんですか?」

「俺が中3の時はそういう話が多かったから。捕まった同級生もいた、父親が自殺した同級生もいた、シンナーにはまっておかしくなった奴もいた、夜な夜な男子の家を泊まり歩く女子もいた」

「来週からは木曜日には必ず居残りします。先生に私たちの話を聞いてもらいたい。先生が言った通りで『何でA中の子たちあんなにガキなんだろうっていつも話していたんです。『夕飯にハンバーグ食べた』とか『虫が怖い』とかそんな話でキャッキャッしてる。あんなん小学生じゃんって」

本校がメインの社員たちは素直なA中の子たちの方が「指導しやすい」と会議でも話していた。塾講師の視点としてはそうなるのだろう。ただ私は俄然B中学の子たちに関心が湧いた。

「A中の子たちはみんなが仲良し大家族よな。私から見てもいい子たちだって思うよ。でもB中の子たちは傷を抱えながら自立し始めている気がする。私のような週1来るスタッフにその思いをぶつけるのは適切なんじゃないの?」

それから何週間にも渡って彼女ら加えて下のクラスの男子も含めて話を聞いた。「リスカ」「出会い系」「親の借金」「行方不明の兄」等、深刻な話もあった。ただ不思議だったのはA中よりもB中が最上位の学力層も部活動も圧倒的に上回っていたこと。ただ100点未満の生徒もやたら多いので平均ではA中が少し上の状況だった。

ただ私も当然全塾生の指導者である。あるタイミングでA中の5人に聞いてみた。

「B中の子たちってどういう印象?」

「何か大人って言うか怖いって言うか。でも話しかけると優しいんですけどね。何を話題にしていいかよく分からない。真面目って感じじゃないのに、すごくできる子がいるのはビックリする。学校にそういうタイプはいないから」

一人の子が思わぬ発言をした。

「そんなことより先生、うちの弟が今日転んで擦りむいたんですよ!」

これには驚いた。小5の弟が転んだ話をこのタイミングで入れてくるとは。これがB中の子たちが話していた「幼い」なのだろう。そしてそれに違和感を覚えた。ただ本部スタッフから聞いていた、この弟の話をした子の評価は「非常に良い子、成績も良好」だった。その評価に私はやや疑問を感じていた。ただ普通の塾講師の感覚ではそうなるのだろうとも納得した。

この頃に私はこの会社を辞めて翌年度に独立することを決めていた。「どうやら世間一般の塾講師よりも学力以外の部分に関心が大きい」という自分の趣向に気付いていた。

あれから14年、接する中学生はどんどんA中学のタイプの子が増えている。間違いなく幼くなり、非常に家族とは仲良くなり、アングラな場所からは距離が遠くなったりしている。しかし当時のA中学の成績層がそうだったように突出した子が出てこなくなった副作用も感じる。
また2020年のコロナ禍以降はその傾向とは違った新しい変化も感じられる。今後の記事でそのあたりを順に書いていくこととする。

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