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無理やりオックスフォード大学の学生になった話 その16 受験

学問にも、高等教育にも縁がなく日本で育った私がイギリスに渡り、オックスフォード大学の学生になるまでと、なってからの逸話自伝エッセイ。
経済的、精神的な苦労もなく甘やかされてワガママに生きてきた日本女性の半世記。


オックスフォード大学社会人枠のオンラインの受験説明会があり、それに参加して授業内容、どうやって先生たちとのやり取りなどをするかを知った。以前は対面式で、ヨーロッパから毎週通ってくる強者もいたそうだがコロナを期に基本オンラインに変わったこと。それでも年度の初めと終わりには対面式の授業やフィールドワークもあったり、実際に使う資料や施設も見せられて、断然入学したい気になった。

そしてオックスフォードの街にも出かけてみた。コロナ禍も落ち着いてきて街にも活気が戻りはじめていたようだった。

オックスフォードはケンブリッジと多少違ってなぜかオープンなようにかんじられた。

大学の建物と街がごちゃ混ぜになっているのだ。路に面した建物の1階はお店やカフェで、その上階は教授のオフィスだったり、大学関係の事務局だったりするらしい。

あの有名なドームの建物、ラドクリフカメラは図書館で学生なら誰でも利用できること、美術館や植物園も充実していた。

そういった特典はケンブリッジに勤めているときもあったけれど、はたらいているときは全然活用していなかった。

ここで学びたい。

イギリスの大学の成績は基本的に優良可の3段階。
優はDistinction, First class, 1:1
良はMerit, Upper second, 2:1
可はPass, Second Class, 2:2
とも表記され、それ以下は不合格。

私が希望するオックスフォードの応募資格も社会人枠とはいえ、学部での最終成績が英国の大学でファーストクラス同等(Distinction)であることが条件だった。

私が初めに留学生として入学した美術大学は地方のそれほど有名な大学ではなかったけれど、私はファーストクラスをもらっていたので、応募資格に値する。あとは3人から推薦状を書いてもらって、500語のステートメントと2000語の論文も提出とのことだった。論文はもう20年前以上に学部生の時に書いたある小論文をもとにに最近流行りのフェミニズムの要素を入れたものに書き換えた。

推薦状は私のことを気に入ってくれていたプロフェッサーの称号を持つ前職の上司に書いてもらい、あとは私をよく使ってくれた学芸員と教育部の部長にも書いてもらった。あとでそれを読ませていただいたが3人とも共通して「彼女に仕事を頼むと、依頼した以上の、期待した以上の成果を出してくれる。」とあった。

書類選考の1次審査に通り、面接を受けた。
事前に面接では数枚の画像を見せるから、それについて語ってもらいます、ということを教えられていた。その前に英会話のオンライン模擬面接をやってくれるコースも試したりした。

二人の試験官はフレンドリーで、私が緊張しないように計らっていてくれているようだった。和やかに、まずは生活とどうやって、勉強する時間を捻出するか、などを話し、次に「4枚の画像のうち一つを選び、それについて研究するとしたらどんな論文のタイトルにするか」という質問だった。

普段研究し慣れていたり、そういう視点で物事を考えていない限り答えられないような質問だった。そこで転機が効いていればわからないならわからないなりのことを言えたかもしれないが、頭の中が真っ白になりしどろもどろになってしまった。

それから2週間後、夜中2時ごろに目が覚めて、お手洗いにいったあと、なぜか枕あったiPadでメールのチェックをすると、不合格の通知が来ていた。夜中にメールのチェックなんかするもんじゃない。それからは眠れなかった。

そのコースには何とかしても入りたい。来年もチャレンジすると自分に誓った。しかし夫は「もっと基本から勉強したほうがいいんではないか、学士のコースで、論文の書き方や、研究の仕方自体から学んだら。」とアドバイスされた。でも、もう私学士号はあるし。。。

しかし私が学士コースで学んだのはもう20年以上前のことで、基本的には実技のポートフォリオに重きが置かれていて卒論は書いたものの、6000語のオックスフォード大学からしたら小論文にしか値しないようなものだった。それから20年ほど英語環境の中で仕事をしていたが、文章を英語で書くというのはメールでのやり取りくらいで、長いフォーマルな文章を書かなければならない機会はなかった。

そこで同じ学科で学部コースの二次募集がその数週間後にあることを知り、応募してみることにした。選考は、短いステートメントと一人からの推薦状と面接。

面接官はBBCの歴史番組で時折プレゼンターとして登場してくる歴史学者だった。
その面接は和やかに進み、試されるような質問もなく、「推薦者の推薦状が素晴らしかった、というか、読んでいて面白かった」などと言われた。

それからまた数週間後、結果の連絡。

「あなたに席を差し上げたいのですが、今年は定員をオーバーしてしまっているので、来年度の席を確保しておきます。」

え、またあと一年待たなきゃなんないの?キャンセルが出たら入れるかどうか問い合わせてみたが、すでに定員をオーバーしているので無理です、とのことだった。

まあいいか、これでオックスフォード大学で学べる。

で、実際に入学するのはこれから1年後のことです。
続く


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