見出し画像

ミスティー・ナイツ(第7話 準備OK?)

 西園寺の表の仕事は絵画やオブジェ、陶芸等、何でもござれの芸術家だ。
 だが裏では有名な絵画の贋作を描いて売ったり、ミスティー・ナイツの1人として、裏の稼業に手を出したりもしていたが。
 今まで盗んだ絵画や彫刻も、西園寺独自のコネクションを使って売りさばいていた。
「こいつはすげえ」
 海夢が口笛を吹いた後で、感嘆の声をあげた。
「さすが西園寺。やってくれるぜ」
 同じく共鳴したのは、釘谷である。
「全く、本物そっくりだ」
「じゃあ、こうしよう」
 美山は皆に宣言した。
「おれが学者に変装して、美術品をすりかえるプランでいこう。それで上手くいかなければ、廃ビル爆破のプランでいく。この計画は同時進行でやる。おやっさんは、廃ビル探しに動いてくれ」
 おやっさんこと釘谷は美山に向かってうなずいた。どんな人物に変装するか。美山は少し考えてみる。美山は欧亜混血だ。
 父親は日本人だが、母親はアメリカ人の白人女性である。その気になればアメリカの白人に変装するのも不可能ではない。
 髪を染めるかかつらをかぶり、目にはカラーコンタクトを入れればいい。英語もネイティヴなみに話せるのだ。
 日本人の中には外国(特に欧米)の文化や文明をありがたがる者達がいる。
 戦争に負けたせいなのか何なのか知らないが、欧米の文化や文明は全て無条件で素晴らしいと考える人達だ。
 かれらの根拠のない先入観を利用するため今回美山が演じるのは、アメリカ人の学者という設定が望ましいかもしれない。
 美山は衣舞姫に指示を出して、世界中の歴史学者の中から、日本の古代文化の研究をテーマにしている学者をネットで探させる。その中で、1人の学者の存在がクローズアップされた。
 アメリカのハーバード大学の元教授で、人類学者のステファン・アダムス博士である。
 専門は東アジアの古代人類学だ。専門分野以外でも博識で優秀なのと、傲岸不遜な性格で世界の学会に名を轟かせているそうだ。
 博士はフットワークの軽い人物として知られていた。過去にも突然アポなしで、日本や中国や韓国の大学や博物館を訪問した実績の持ち主だ。
 一方極端な人間嫌いで知られ、講演会やパーティには一切出ないし、マスコミの取材も受けない。スマホも自宅の電話もないので、誰も予定を把握してない。
 写真も嫌いで、ネットにも画像はあまり載ってない。過去に結婚していたが、すでに奥さんと離婚しており、3人の子供は父親を嫌って別居している。
 変装して、アポなしで南美美術館に押しかけるなら、何かと好都合な人物だ。
 変装のメイクは立岡愛梨にいつも同様手伝ってもらう。彼女の本業は、メイクアップアーティストだ。
 日本やアメリカの映画やドラマのスペシャルメイクにも関わっていた。化粧や変装に必要な小道具は全て、このアジトに揃っている。
 ここだけでなく、全ての隠れ家に常備していた。美山は早速愛梨の見たてで茶色い髪に白髪のまざったかつらをかぶる。愛梨の細く、白い指先が美山の鼻の上にパテを盛って、アダムス博士の鷲鼻を再現した。
 身長はアダムス博士が美山より3センチ高い183センチ。そう大きく違わないので問題なし。念のためシークレット・シューズで背を、三センチ底上げする。顔や腕や手に薄くパテを盛り、その上から色を塗って、白人の高齢者の皮膚を再現した。
 目尻に盛ったパテの上から楊枝のような道具を使って愛梨が小じわを再現する。姿形を鏡に映しだしてみたが、そこにはネットの画像通りのステファン・アダムズ博士がいた。後は声だ。
 衣舞姫がネットで検索した、博士が珍しく講演会で話している画像の声を元に、美山は物まねの特訓を開始した。
 元々美山は母親の祖国アメリカで生まれ育ったので、流暢な英語を話せる。
 しかも20代の一時期ものまね芸人をやっていたので、人の声色を似せるのも得意だ。
 録音した声を自分で聞き、なおかつ他のメンバーにも聞いてもらい、納得した物が完成した。
「さすが愛梨。スペシャルメイクはバッチリだな。衣舞姫の情報も役に立った。おれが普通に検索したんじゃ、こんなふうにいろんな画像は入手できねえ」
 画像の中には、アダムズ博士が出入りした大学の防犯カメラに映った物も含まれていた。当然ながら衣舞姫がハッキングしてゲットした映像だ。
「おやっさん、海底鉄道での現金強奪プランの方は進んでる?」
 美山は元過激派に質問した。
「当たり前田のクラッカーだぜ。金庫の底は爆破しても、中の金に影響は出ないような、特別な爆弾を用意してある」
「どうでもいいけど『当たり前田のクラッカー』って、古すぎる」
 美山が笑って突っこんだ。
「何それ。前田敦子の話」
 きょとんとした表情で愛梨が聞いた。
「全然ちげーよ」
 海夢が脇から突っこんだ。
「冗談の時間は、そこまでだ」
 やんわりと制止したのは美山である。
「肝心の実行プランだが、おれが王冠を偽物とすりかえる。その後で予告状を出す。そして予告した日に金庫から現金だけを強奪する。後で警察は王冠もすりかえられたって気づく寸法だ」
「予告状を出した時には、すでに王冠は盗まれてるってわけか。だが、そう簡単にうまくいくかな」
 腕ぐみをしながら釘谷がつぶやいた。
「簡単だなんて思っちゃいねえさ。何でも行動を起こさなければ始まらねえからな。千里の道も一歩から。ローマは一日にしてならずって言うじゃねえか」




ミスティー・ナイツ(第8話 招かれざる訪問者)|空川億里@ミステリ、SF、ショートショート (note.com)

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?