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異形の大陸(SFショートショート)

 あらすじ
 時は未来。地球から派遣された宇宙探査艦は、未知の惑星に到達するが……。


 ドロシー・ミラー艦長の乗る宇宙探査艦は、銀河系内の、地球人にとっては未知の宙域を航行していた。 
 やがて眼前に地球そっくりの青い惑星が現れる。白い雲があり、海があり、陸地が存在していたのだ。
 惑星の周囲は3つの衛星が回っており、人工衛星の姿もある。
「見てください。あれを!」
 部下の1人が大声をあげた。彼が驚くのも無理はない。
 その惑星には、地球のユーラシア大陸ほどの大きさの陸地があったのだ。
 それ自体は普通だが、まるで包丁で切られたような、綺麗な長方形をしていた。また周囲には地球のイギリスやアイルランドや日本のような大きな島の姿はない。
 ちょうどそこへ、その遊星から量子テレポート通信が入った。
 ドロシーがいる司令室のホロモニターに、地球人に似た顔の立体映像が映しだされる。
 その人物は男性なのか女性なのか、見ただけでは判別がつかなかった。
 その人物が口を開くと未知の言語が放たれたが、司令室に搭載された翻訳機が瞬時に英語に訳し、ドロシー達乗員の脳に埋め込まれたチップを通じて内容を届けたのだ。
「私はプタント星のマパナンザです」
 マパナンザの声は中性的で、やはり男女どちらなのかわからない。
「はじめまして。私は地球という惑星から来た探査艦の艦長のドロシー・ミラーです。我々の目的は銀河系の隅々まで探査して、他の知的生命体と平和的な交流を深める事です」
「そのわりに、あなた方は軍艦に乗ってらっしゃるんですね」
「宇宙では、どんな危険があるかわかりません。あくまで自衛のために武装しています。それより可能でしたら、貴星への訪問を願いたいのですが。この艦は軌道上にとどめ、マイクロ・ワープで乗員のみ伺おうと考えてます」
 ドロシーは、そう発言した。
「少々お待ちいただけますか」
「もちろんです。そちらの議会での議論や採決も場合によっては必要でしょうし」
「そういったものは、必要としません。私1人で決めますから。ただ、私が考える時間がほしいだけです」
「失礼ですが、マパナンザさんは、プタント星の皇帝陛下でいらっしゃいますか?」
「違います。私はプタント星の1年ごとに交代する大統領です。半年前に就任し、半年後には辞任します。皇帝のような専制君主は、とうの昔に廃止されてます。任期中は、私が全権を任されているんですよ」
「そうでしたか。大統領閣下、うがった話をお伺いして失礼しました」
「かつては、この星にも議会がありましたが、今はありません。ともかくしばらく時間をください」
 それだけマパナンザは伝えると、通信が切れた。
「全権を掌握してるというのは、実質的な独裁者ですね」
 部下の1人が発言する。
「でも、1年で交代するのね」
 ドロシーが返答する。
「全権を任せてしまえば、1年では降りたくないという大統領も出てきそうだけど」
「そうですよね。その辺はどうなってるのか、興味深いです。1年で交代ってのは建前で、実際はずっとそのまま同じ人物が大統領を続けてて、王様みたいになってるのかもしれません」
 その後艦のAIがプタント星の公転周期を計算した。
 この惑星が2連星の恒星の周囲を回りきるのには、地球時間で9か月かかると判明する。
 つまりプタント人にとっての1年は、9か月になるのだ。
 地球同盟政府の執政官の任期が1期3年なのを考えると、だいぶ短い。
 が、地球には議会があり、複数の政党が認められている。
 ドロシーは新たな異星人との接触を地球に報告しようとしたが、なぜか量子テレポート通信は、つながらなかった。
「おかしいわね」
 ドロシーは、つぶやいた。
「また後で、連絡してみます」
 通信担当の士官が彼女に声を投げる。
 やがて地球時間で1時間後に再びマパナンザから通信が入り、プタント星の首都への訪問が許可された。
 首都は綺麗に裁断されたような長方形の大陸のちょうど中央にあるそうだ。
 その後大気の成分や重力の大きさを調べたが、地球とあまり変わらなかった。 
 また地球人にとってもプタント人にとっても有害なウィルスは、この遊星の住民がはるか昔に駆逐したので予防接種の必要もないと判明する。
 なのでドロシーは普通に服を着ただけで、1人で首都にマイクロ・ワープしたのだ。
 首都なので当然大勢人がいたが、びっくりする事に道行く人、全てがマパナンザと同じ顔、同じ背格好をしていた。
「ようこそいらっしゃい。私がマパナンザです」
 大統領が、ドロシーに声をかけてくる。
「みなさん、似たような背格好なんですね」
「地球では、そうじゃないんですね。我々はクローンなんです。昔は肌や目の色も体型もバラバラでしたが、それは差別や争いの原因となるので、現在は人工子宮から生まれたクローンのみが存在しています」
「自然分娩をやめたんですか?」
「その通りです。そもそも私達は男性でも女性でもありません。男性器も女性器もありません。性の違いは性差別につながるので、意図的にそうしたのです」
 マパナンザ含めクローン達は体のラインがわからないトーガのような衣装を着ていたので、男でもなく女でもない人物が、正確にどんな体型をしてるかはわからなかった。下世話な興味だが、裸にしたら、どんな姿をしてるのか気になったのだ。
「ちなみにこの大陸は綺麗な長方形ですが、これはどうして? 当然人為的にそうしたんでしょう?」
 ドロシーは、質問した。
「その通りです。昔はもっと複雑な形をしてました。半島が突き出てたりとか。でも半島や大きな島があると、そこで生まれ育った人達は独自の言語や文化を生み出してしまうので、差異が出ないよう長方形にして、大きな島も削ってなくしてしまったのです」
 マパナンザはそこまで話すと、ドロシーの表情を確かめるように覗き見た。
「あなたはそこまでしなくてもと考えたかもしれません。しかし、この惑星ではかつて大きな戦争がありました。戦争を始めた独裁者は差別主義者で、自分とは肌の色や言語の異なる民族を抹殺しようとしたのです。その戦争では核も使われ、我々の先祖は絶滅寸前までいきました。そんな悲劇を繰り返さぬよう、こういった体制がとられる形になったのです」
「よくわかりました。私は、単に聞いただけです。地球の大陸は、基本的に元々の状態を残してますから。実は先程地球に通信を送ろうとしたらできなかったのですが、こちらの通信装置から代わりに連絡できないでしょうか?」
「通信できなかったのも無理はないです。なぜならそれができないよう我々が妨害電波を送っているからです」
「なんですって!?」
 想像できなかった事態に、ドロシーは歯噛みをした。
「我々は、異分子を好みません。個性が戦争の原因になったため、わざわざそれを殺したのです」
 マパナンザがしゃべる間に、兵士と思われる者達が、ドロシーに銃を突きつけた。
「すでにあなたが乗ってきた艦は破壊しました。あなたにも死んでいただきます」

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