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スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)
あらすじ
自殺願望のある者達が、闇サイトを通じて南海の孤島に集まる事に。闇サイトの主催者は、孤島で参加者全員が美食を楽しんだ後1週間後に苦しまない方法での死を約束。
にも関わらず、なぜかその前に1人ずつ殺されてゆく……。
『当サイトでは、30歳以下の自死志願者を募集しています。先着8名で打ち切りますので、お早めにご応募ください』
スマホをいじっていた時に、そんな文章が倉橋翠(くらはし
スーサイド・ツアー(第18話 疑惑)
相変わらず妹尾の声は小さかったが、普段よりちょっとだけ明瞭に発音しているように聞こえる。
「女なんて、そんなもんだよ」
井村がそう吐き捨てた。
「あら、あたしもそう?」
いたずらっぽそうな目で、翠が井村を見ながら聞いた。
「そ、それはねえけど」
井村の目が、泳ぐ。
「そう言えば10時の後、10時半ぐらいにも余震があったな」
日々野がそう口にする。
「俺も、気づいた」
井村がそう同意
スーサイド・ツアー(第17話 告白)
部屋に1人で戻った一美は、深い眠気を感じていた。外は気が狂いそうな暑さが始まりはじめていたが、室内はエアコンから流れる空気が心地よい。
ベッドに潜りこんだ彼女は、やがて眠りに落ちたのだ。
やがて、ビルの震えに気づいて目が覚めてスマホで時刻を確認したら、午前10時だった。大した揺れではなかったので、そのまま寝る。再び起きて時計を確認したら昼の12時を過ぎていた。
多分美優が1階の厨房で食事を作
スーサイド・ツアー(第16話 探索)
島の探索をすると決まり、美優は医師の日々野と一緒に港に向かって歩き始めた。井村と一美と翠の3人は港とは逆方向の右側へ、つまりは時計回りに進んでゆく。
「辛いなら、部屋に戻った方がいいんじゃないですか?」
日々野が優しく言葉をかけてきた。
「大丈夫。むしろ何かしてる方が、気がまぎれるから。優しいのね」
「一応医者ですから」
「お医者さんが自死を選ぶなんて、社会にとって損失だと思うけど」
「人
スーサイド・ツアー(第15話 祈り)
外はまだ暗かった。出る時に大広間の時計を見ると、午前3時半を過ぎている。冷房の効いた屋内から出ると、蒸し暑い6月の熱帯夜が待ち受けていた。
再び夫の遺体にまみえるのかと思うと、美優は胸が張り裂けそうになる。
「美優さん、無理しないで」
翠が、声をかけてきた。
「よければ大広間に残ってて」
「ありがとう。でもやっぱりあたし行かないと」
重たい足を引きずりながら、美優はそう宣った。結局大広間に
スーサイド・ツアー(第14話 新たな謎)
一美が去った後、美優は夫のうつぶせになった顔に懐中電灯の光を当てて、覗きこむ。全く息をしていない。
何度も礼央の名前を呼んだが返事はなく、ピクリとも動かなかった。背中には複数の傷跡があり、ありえないほど大量の血が流れている。すでにアリやハエがたかりはじめていた。足音が聞こえてくる。
驚いて港の方を見ると、いつのまにか去っていった方向から、一美の姿が現れた。
「港まで行ったけど、誰もいな
スーサイド・ツアー(第13話 闇の中へ)
殺意を感じたのは一瞬だった。やがて礼央は一種の虚脱状態になり、重い足を引きずりながら、部屋に戻る。
「どうだった?」
美優が、聞いてきた。
「犯人かどうかはわからない。だが、動機がやはり考えつかない」
その日は天気こそ晴れていたが、建物の中は、重苦しい暗雲が立ち込めていた。
昼食の時も、夕食の時も、皆口数が少なかったのだ。
美優は食器洗いを終えた後1階の喫煙所でタバコを吸い、その
スーサイド・ツアー(第12話 沸き起こる殺意)
ドアには小さな丸い覗き窓がついてるので、そちらで確認したのだろう。 やがて一美が顔を出したが、ドアチェーンは、かけたままである。
「一体何?」
怯えた顔で、こっちを見た。
「死体の画像を撮ってましたよね? よければ見せてくれませんか?」
「何で?」
狼でも見るような目だ。
「見れば何か、犯人の手がかりになる点がわかるかもと考えたんです」
「素人に何がわかるの?」
その言葉は、ナイフのよう
スーサイド・ツアー(第11話 怪しい女)
「がっかりだよ」
部屋に戻ると、美優がそうつぶやいた。
「お店の経営が上手くいかなくなって借金作って夜逃げ同然にここへ来た。来週の月曜日に死ぬまでのひとときを楽しもうと考えてたのに、こんなはめになるなんて」
美優は床にくずおれると泣き出し始める。
(俺は美優を幸せにできなかったんだな)
激しい後悔が、身を苛んだ。結婚して、店を2人で始めた時は世界で1番じゃないかと思えるほど幸福だったのに。
スーサイド・ツアー(第10話 わからぬ動機)
日々野の目線の先には、井村がいた。
「君は、理亜さんに色目を使ってたな。が、袖にされたんでカッとなり、彼女を殺した。そういう可能性もある」
「人聞きの悪い話するんじゃねえよ」
井村が医師に食ってかかる。
「でもそれ、逆にあるかしら?」
意外な助け船を出したのは、翠だ。
「確かに井村さんは色目を使ってるように見えたけど、理亜さんはかなり警戒してた。簡単に部屋を開錠するとは思えない」
「部屋を施
スーサイド・ツアー(第9話 思わぬ悲劇)
(地震かな?)
なんとなく部屋が揺れたような気がして、竹原礼央は、目を覚ます。
スマホで時刻を見ると深夜の零時を少し回っていた。脇を見ると、妻の美優は横になっている。
こないだ沖縄沖で発生した地震の余震かもしれない。
このあたりでは、余震がコンスタントに発生してると、横浜にいた時に報道されていたのを思いだす。
スマホは圏外なので、インターネットで配信されたニュースを確認できない。
でも
スーサイド・ツアー(第8話 狂った目算)
「ごめんなさい。あたし、余計なおせっかいに走っちゃって」
深々と美優に頭を下げて謝ると、一美はそそくさと席を立ちあがり、その場を辞して、エレベーターで4階の自室へ上がる。
我ながら、余計なごたくを並べすぎたと彼女は内心反省した。
そして自室のドアを開錠すると、部屋に入る。室内からサムターンキーを回して扉を施錠する。
しかし、自殺願望のある人達の気持ちは、正直一美には理解できなかった。
無
スーサイド・ツアー(第7話 あなたは誰?)
「どうしてよ!?」
井村は自分でも、おのれの声が尖ったのがわかる。
「あなただって自殺しに来たんでしょう? 同じじゃない」
翠が、そう返した。
「だって翠さんは人気タレントで……」
「あたしも井村さんも、同じ人間でしょう? 命の重さに変わりはない。あたしは、自分の人生に疲れちゃったの。これ以上生き続けるのは、もうこりごり」
翠の顔に翳りが生じた。井村には、どうすれば良いのかわからない。
自
スーサイド・ツアー(第6話 残された者達)
「それではみなさん、私はこの辺で退散します。1週間後に戻りますので、後はよろしくお願いします」
案内役の宇沢はそれだけ口にすると、北側のスライドドアを開けて橋を渡り、丸い池の対岸に速足で向かった。
そして向こうに到着すると右すなわち東に行く。そっちにはここへ来る時上がってきた階段がある。
宇沢はそこを降りて、姿を消す。しばらくすると、ここにいるメンバーを連れてきた船が北側の港から出ていくのが
スーサイド・ツアー(第5話 ある計画)
「それは、私にもわかりません」
苦笑と共に、案内役の宇沢が答える。
「この建物を建てた方の趣味なんでしょう」
「建てたのは、どんな方なんですか?」
一美は、さらに畳みかけた。
「私も、よく知らないのです。私としてはそれなりのお金をもらっていますし、その代わり余計な詮索をしないよう釘を刺されています」
一行は、橋の上を歩いて渡った。橋は幅2メートルぐらいある。両脇に手すりがあった。
池の中は
スーサイド・ツアー(第4話 約束の地)
崖の周囲を巡るように道があるが、宇沢は左の方に向かう。他の8人もゾロゾロと付き従った。宇沢の次を歩くのが井村である。その他の者達は、足取りが重い。自殺志願者ばかりだから当然だろう。
やはり井村が自殺願望者とは、一美には信じられない。彼女は1番後ろを歩く。どんな顔ぶれが集まってるのかを、後方から俯瞰して見たかったのだ。宇沢が胡散臭そうな目で、一美を見る。
彼女は、顔をうつむけた。一美のすぐ前を