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謝れない男たち

夫がコロナに感染した。
不可抗力だ。それは仕方がない。
ウイルスなんてどこにでもいるし、どれだけ予防していても
感染するときはする。それは仕方がないことは分かっている。

私は助産師だ。
赤ちゃんとお母さん達と関わっている仕事をしている。
妊婦さんと出産前にランチに行こう!
と言っていた。が、泣く泣くキャンセルをした。
万が一。。。があるから。
私は元気だけれど、万が一、感染源になっていたら
後悔しきれないから、キャンセルした。

一言、夫には「悪かったね。ごめんね。」って言って欲しかった。
が、絶対言わない。
なぜなら、九州男児だから!!
出身地差別などではない。
夫の父親も良い人ではあるが、謝った姿を見たことがない。

こんなことがあった。
茶摘みの時期。採ったお茶っ葉を車のトランクに積んでいた。
義父がトランクを閉めた。
義母は茶っ葉をトランクの下の方で抑えていた。
勢いよく何も言わずにトランクを
閉めたので、義母の手を挟んでしまった。
義母は痛みで声が出ていなかった代わりに、私が叫んでしまった。
みるみる内に手が腫れていき、折れているかもしれないと、
救急外来に連れて行った。
車の中で、義父は
「こっちは、お前の手があるなんて知らないだろが!!」
と、ごめん。と三文字言えば良いのに、何故か逆ギレしていた。
義母と言えば
「ごめんねぇ。スッと手を引けると思ったのよ。
悪いねぇ。病院まで連れて行ってもらって迷惑かけたねぇ。」
と謝っていた。

違う違う違う。
えっ?なんで?
おかしいやろ??
なんで、義母が謝ってるん?
ここは、異国か?
ただただ、文化の違いに驚きを隠しながら、
我が身に降りかかる事を悟った。

異国と思えば良い。
自分の価値観を相手に押し付けてはいけない。
私は夫の謝る姿を見たことがない。
私にキレて、壁を壊した時も決して謝らなかった。
謝ったら魂を抜かれるとでも思っているのかもしれない。

かく言う私は「ごめんね」が口癖だった。
「ごめんね。診察するね」
「ごめんね、ちょっと冷たいかもしれないけど、
赤ちゃん元気かどうか確認するのに、モニターつけるね」
「痛いのにゴメンね。陣痛治ったら、先生が呼んでるから一緒に歩いてみようか」
お産の時の診察や誘導など、事あるごとに、
「ごめんね」を使っていた。

アメリカ生活が長かった友人と二人で旅行した時、
バス移動で、私が先に席に座って待っていた。
「先に座ってごめんね。」
お先に失礼!という軽い気持ちで声をかけたら
「いつも、ごめんってなんで付けるの?ごめんって英語でI'm sorryなんだよ。
I'm sorryって遺憾に思うって言葉なの。毎回、遺憾に思われたらしんどいし。
別にバスに先に座ろうが待ってようが、どうでも良いし。あなたの自由なの!」

って言われた。自分の口癖を振り返るきっかけになった。
「遺憾に思う。」「I'm sorry.」「ごめん。」

それでも、今回は「I'm sorry」でも一言欲しかった。
それだけ、私はランチを楽しみにしていたんだ。

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