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今日の一福

2024/03/14


 そいつの名はクレイジーソルト。
 出遭ったときの衝撃たるや、ハッと左右を見回したもんだね。

 ここはスーパーで合ってるか?
 調味料の棚でまちがいないか?
 クレイジー果たしてその心その概念たるや如何?
 わたしにとってのクレイジーとは?

 等々。
 内なる自分と膝を詰めて、かれこれ15分ほど対談した。そんな気がする。
 そっと棚からブツを取る。息がスッと細くなる。
 やましいことをしてはいない。が、やましいこの人となりはどうにもならない。
 半目になってブツを眺める。さり気なく、しかしここは注意深く。
 商品名の上、やや空白を取って、緑の文字でこう書いてある。

『ハーブ調味料(岩塩ベース)』

(混ぜ物あり…か)

 こいつはやべえ。やべえやつだぜ。キマッちまうぜと動悸が逸る。
 しかし何の気なく左右を確認。
 店内の客足はちらほら。店員も特には見えない。すくなくとも近くには居ない。近づいてくる気配もない。善良なる一般市民を巻き込んではならない。ここでキメるわけには当然いかない。よってさり気なくレジを通す。店を出る。おちつけ。素数を数えろ。ここで振り返るのは素人のやること。チャリンコにまたがるまでは焦りは禁物。
 いざ!
 いざいざ!
 自宅まで激漕ぎじゃあ!―――

 ―――以来、我が家ではずっと愛用。
 味付けに困ったらば――とりわけ肉料理――四の五の言わずに振りかけてみよ。あ~らふしぎ。どうにでもなりますがなという、たいへんにクレイジーな魔法のお粉でございます。

 ちなみにクレイジーすなわち「夢中になる」という意味を知ったのは、ごく最近。
 発狂するほどンまいとか、どうかなっちまうんじゃねーかとか、そっちの方向で夢見た学生時代のパリピなわたしよ。どんまい。でもそういうのもアリっちゃーアリという話の途中で、ふと思いついて夫に言った。

「なんかスタンドでありそうじゃない?」
「ん?」
「スタンド名:クレイジーソルト」
「能力は?」
「実は甘い」
「ただの砂糖じゃねーか」

 おあとがよろししいようででんっ!

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