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陰謀論基礎問題50(解答編④:医療・健康編、Qアノン編)

解説:医療・健康編

問26. ワクチンを打った人からウイルスや毒素が放出されると言われる現象を何と呼ぶ?
答. シェディング

新型コロナ禍における反ワクチン言説で頻出するようになった言葉である。具体的にどの経路でこの説が流通していったかは明確ではないが、騒ぎとなった初期の事例としては、マイアミの私立学校がシェディングを理由にワクチン接種者への自宅待機を命じたものがある。

このシェディングは、生ワクチンでは起こる可能性があるが(起こったとしても感染流行を起こすほどの感染力があるとは考え辛い)、スパイクタンパクを生成する(ウイルスそのものではない)mRNAワクチンで「ウイルスや毒素が放出」されることは考えられず、「新型コロナmRNAワクチンによってシェディングが起き、ウイルスや毒素が放出される」説はデマであるというのが大方の見方である。

「新型コロナワクチンがシェディングを引き起こす」という説は日本にも入ってきて流行し、その結果一時は「シェディングの影響を防ぐためにマスクをする」という、一周回って通常の新型コロナ予防と同じ行動を促すような投稿も見られた。

ウォッチャーとしても、マスクをして反ワクチンデモを取材している時に「何故マスクをしているのか」と聞かれた際、「シェディングが怖いので」と返すことができた(筆者も実際にこのやり取りをしたことがあり、相手からの返事は「シェディングくらい大丈夫」というものだった)。

問27. ある反ワクチン団体は、スマホで周囲の新型コロナワクチン接種者を検知するアプリを配布しています。スマホでワクチン接種者を検知できるとされる理由は?
答. ワクチンと一緒に注入されたチップにより、Bluetooth接続が可能になるため

ワクチンと一緒に注入されたマイクロチップにより5Gに通信に接続され操作される」説はそのSF的なインパクトによって多くの人の目を引き、SNSでも何度もバズるネタとなったためご存知の人は多いだろう。この説を知っていれば、アプリそのものを知らなくても類推から正解を導出できたはずだ。

このアプリは「チップチェッカー」という名前で、反ワクチン団体によって配布されている。

アプリを入れ、赤く表示されるMACアドレスがワクチンマイクロチップの反応だという。

これを配布している団体が独特なのは、神真都Qのようにオカルトやスピリチュアルに頼るのではなく、アプリやカスタムOSといった技術方面で課題解決を試みているところだ。

チップチェッカーにしても、「神社のおばあちゃん実験」が発端となっており、これは「アプリ発案者が神社で待機していたところ、おばあさんがやってきた。スマホを見るとBluetooth接続に表示されるMACアドレスが増えていた」というものである。

実験としては漏れがあるものの、それを通じて証明しようという姿勢、さらに技術的解決を試みる姿勢は、どこかクリエイティブな雰囲気を感じさせる。

詳細はこちらの記事をお読み頂きたい。

問28. 新型コロナワクチン接種後、物凄いスピードで進行してしまうと言われる癌を何と呼ぶ?
答. ターボ癌

これも「ターボ」というインパクトの強い語感のせいか何度もバズっていたため、ご存じの方も多いだろう。

この言葉がX(旧Twitter)に登場したのは2021年9月21日で、その前日にドイツで行われたライブ配信で「ターボ癌」という言葉が登場したと投稿されていた。

ここで言及されている会見は、その後の2021年11月4日、別の人物によって投稿されたポストでリンクが貼られていた「ロイトリンゲンの病理学会:コビットワクチン接種後のターボ癌(会見日は2021年9月20日)」という動画のものと思われる(先のツイートの3時間という尺とは異なるが、内容からしてこれだろう)。

この動画は"klagemauer.tv"という動画配信チャンネルからアップロードされたものだが、このチャンネルを運営しているのはOrganic Christ Generationというスイスのキリスト教系宗教団体で、ホロコースト否定論や地球平面説、エイズ陰謀論など、ありとあらゆる陰謀論を主張する極右カルトというのが一般的な見方である。さらに、元信者によれば教団内では子供に対する虐待が行われていたという

その後の2021年10月21日には、ドイツのWalter Weberという人物から日本の医療従事者へのメールが送られており、これがWeRiseのサイトに掲載された。WeRiseは反ワクチンや代替医療関係者が多く参加しているイベントで、実行委員に神谷宗幣氏、登壇者には松田学氏が含まれており、参政党との繋がりが深い。

こうして「ターボ癌」という言葉はドイツ語圏から輸入されて日本でも広がり、2022年11月には募金詐欺が疑われるツイートが拡散したことで各所から指摘が行われた。この騒ぎでターボ癌を知った方も多いのではないだろうか。

問29. 米国の極右陰謀論で、特にジョン・バーチ協会が推進していたものに、共産主義者が水道水に「あるもの」を入れることで国民を弱らせようとしているという説があります。その「あるもの」とは?
答. フッ素

「米国で水道水に添加されているもの」という情報から、陰謀論に関係なく答えを導き出せた方もいると思う。また、『博士の異常な愛情』でリッパー将軍がこの陰謀論を主張するシーンがあるため、映画好きな人ならご存知だったかもしれない。

また、フッ素添加陰謀論が示唆的なのは、左右両派が主張していることである。『陰謀論入門』でマイアミ大学教養学部政治学教授のジョゼフ・E・ユージンスキ氏が解説している通り、この陰謀論は当初極右が「共産主義者の陰謀」として主張していたものの、実はその後は左派が「大企業の陰謀」として主張している(そこで引用されている論文はこちら)。

これは、都合の良い陰謀論を支持してしまう人は政治的思想に関わらず存在するということを示している(不正選挙陰謀論が両派から出てくるのも例の一つ)。

さらに、「ヘビ毒」を連想した方も確認したがこの方は上級者である。実は「新型コロナパンデミックの正体は、ヘビ毒による大量殺戮計画だった」という陰謀論が流行し、日本にも入ってきていた。これは、「飲水に何者かが毒を入れている」タイプの話が持つ感染力の強さを表す例だろう。

解説:Qアノン編

Qアノン編も「知っている人にとっては基本だが、知らない人にとっては全く分からない」問題が入りやすいジャンルである。2010年代後半から流行したQアノンは、陰謀論の長い歴史からすれば新顔だが、今後の陰謀論の基本となる可能性が高い。トラディショナルな陰謀論派も押さえておきたいところだ。

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