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再生の森 #毎週ショートショートnote『記憶冷凍』

記憶冷凍ヴァドス
ナギがそう呟き、掌をヌイの額の辺りに乗せるとヌイはそのまま眠りについた。

「彼女は幼い頃に見知らぬ連中に拐われて、奴隷として買われた家で、主から酷い目にあっていたのだそうだ」
ナギはテラにそう説明した。
「それでトマが此処に連れて来たの」
「あぁ。その家から逃げ出して、隠れていたところをトマが保護した」

翌朝、眠りから目覚めたヌイの表情は、別人のように明るかった。

「ありがとう」
晴れやかな表情のヌイを見て、迎えに来たトマが礼を伝えた。
「ヌイの新しい人生に幸あれ」
ナギが言った。

「嘘みたいだろ」
ナギがテラに言った。
「えぇ、まるで魔法のようね」
「不要な記憶を凍らすんだ。…本当に良いんだね」
「お願い」
テラが言い、椅子に座った。

「じゃあ、僕らのこれまでの事を全て、よく思い出して」
ナギが掌をかざすと、テラは涙を流しながら眠りについた。

目が覚めると、その部屋にもうナギはいなかった。そしてテラはドアを開け、新しい人生を歩み始めたのだった。


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