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ボクの「ヒゲ脱毛攻略法」

「ヒゲ脱毛は痛いのですか?」と聞かれることが多い。が、よく考えてほしい。痛くない訳がなかろう。「新幹線ってやっぱ速いの?」と聞いているようなものである。愚問であるように感じてならない。

ではどのような痛みなのかといえば、僕がはじめて脱毛(医療脱毛)をするときにクリニックの若い女医からの説明をまるパクリで答えると、「輪ゴムではじいたような痛み」である。脱毛を経験したことのない君たち諸君からすれば、なんやそれって感じでしょう。僕もそう思った次第だ。

だって、この輪ゴムというのは何センチほど引っ張っている状態なのか分からないのである。あるいはどれほど使った輪ゴムなのか。その輪ゴムの細さはどの程度なのか。そういったことが明記されていないから具体的に痛みを想像できないのだ。

例えば、4重にしてペン3本を半年間ほど留めいてたブヨブヨの輪ゴムと、新品、且つ輪の大きさが小さめの輪ゴムとではその痛さは異なるだろう。そして、前者の輪ゴムを2センチほど伸ばした状態ではじくのと、後者の輪ゴムを30センチほど伸ばした状態ではじくのとではその痛みの差は歴然である。

「あの、すいません。この『輪ゴムではじかれるような痛み』とはどのような状態の輪ゴムで、どの程度伸ばした状態ではじくのでしょうか」とお姉さんに聞きたいところだったが、困った顔をされるのが目に見えたし、単純に痛みを恐れる弱い男として色眼鏡をかけられることになると思ったのでやめた。

この曖昧な痛みの説明があったとき、僕は涼しい顔で、「へえ、そうなんですね」とだけ言い残し、「有料オプションの麻酔クリームはおつけしますか?」と聞かれたときは食い気味に「いや、ダイジョブっす!」と即答した。

ではその痛みというのは実際にどのようなものなのかといえば、、

マイナス50度でキンキンに冷やされた新品の細い輪ゴムを23センチ張ってはじかれるような痛み

である。

無論、それは部位によって異なる。ヒゲが薄いところに関しては全くといっていいほど痛みはないのだが、鼻下や顎といった濃い部分に関しては激痛である。

とはいえ耐えられないほどの痛みではない。まあその耐えられるか、耐えられないかというのはこれまでどのような人生を送ってきたのかといった個人的経験が大きいだろう。

社会の荒波にもまれ挫折を繰り返し経験してきた人間とか、難易度が高そうなインドを旅したことのある人間とかからすれば全く持ってぬるいのでしょう。

脱毛の手順としては、ベトナムの寝台列車と同じかそれよりも硬い、あまり柔らかくないベッドのような場所で仰向けに寝かされ、アイガードという目を覆う何かをつけさせられる。視界はなくなり、薄っすらとだげ白色の電灯の光が隙間から入って来るのみだ。

それから部分的に照射していくのだが、最初の1,2回は痛みを聞いてくれる女医が多い。

「痛くないですか?」
痛くないといえばそれは嘘になる。が、こういうものなのだと痛みを受け入れれば、それは「痛くない」になるだろう。ていうか、「痛くない?」というのは痛みを伴っていないことが前提となった声かけである。痛いとは答えにくいのだ。そもそも、僕は社会の荒波をかいくぐってるしさ、これまた愚問なのだけど。

「ダイジョブです」
毎度毎度、力のない返事をする。

すると大抵の場合はここから一気にペースが上がるのだ。箱根駅伝で序盤からペースが速くて観ていて不安になってしまう無名の選手をテレビ越しで眺めているときと同じ気分になる。

照射は一定のペースで行われる。トン、トン、トンと、リズムよくされるのである。どのくらいのリズム感かといえば、それは「それ行けカープ」が球場に流れる際の太鼓(手拍子)のリズムと同じである。分かりにくいだろうから、動画のリンクを貼っておこう。

カープファンの僕からするとこれは結構都合がいいことである。ヒゲ脱毛の最中というのは当然、本を読むこともできなければ昨日の堂林翔太の打席内容を確認することもできない、とても退屈な時間だ。順当にいけば脱毛に集中するほかがないということになる。それはすなわち、痛みに集中するということ。そんなの拷問だ。嫌だ!嫌だ!嫌だ!

それに有料オプションの笑気麻酔というものの原理は、聞く話によれば興奮させることによって痛みを和らげるものであるらしい。

つまり、気を紛らわすための「それ行けカープ」であり、興奮状態(戦闘状態)にするための「それ行けカープ」なのである。脱毛中に「それ行けカープ」の歌詞を口ずさめば、それ以降「痛みはないですか?」と聞かれてもそれは「ないです!」と答えるに決まっている。といっても、ここでカープの応援をするわけにもいかないから、黙って心の内で怒鳴るようにして歌うようにしている。

そうこうしているうちに、脱毛は終わる。だいたい3分程度である。アイガードが外され、「明るくなりますのでゆっくり目を開けてください」と指示がある。

その指示通り、ゆっくり瞼を開く。涙がポローっと頬をつたう。手で、涙をさっと拭い、何事もなかったかのような表情をつくる。

「次回はまた1か月以上空けての照射となりますのでご注意ください。予約される際は……」
淡々と話す女医の話を澄まして聞く。このまま何も聞かれずに帰りたい。早く帰らせてくれえ!

「痛みはどうでした?」
しかし案の定、会話の延長としての質問が飛んでくる。

「あーダイジョブですね」とサッパリと即答したいところだが、涙が出ていることは多分バレているからこその質問であろうから、毎回、照射後に素直になるというのが恒例行事である。

「そうですよね、痛いですよねえ。お疲れ様でした」
そんな優しいお言葉をいつももらっている。この場を借りてありがとうございます。
広島カープが負けた日も、こんな優しい言葉をかけてくれると毎晩ぐっすり眠れるのになあ。

ちなみにインドの旅を終えた3週間後に6度目の脱毛をしたのだが、痛みは相変わらずであった。


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