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【開催報告】第6回 デジタルガバナンスラボ「データ解放に向けたソリューション」

データ価値を解放するためには、どのような枠組みを設計していく必要があるのかーーー この本質的な問いの重要性を否定する人はいなくとも、実際のデータ活用とそれに伴う個人のプライバシー保護の議論になると、各国のスタンスは大きく異なります。それぞれに課題がある中、日本ではDFFT(Data Free Flow with Trust、信頼性のある自由なデータ流通)という「トラスト」をその設計の中核においたデータガバナンスをグローバルに提唱しているのは周知の通りです。第6回目のデジタルガバナンスラボでは「データ解放に向けたソリューション」をテーマに、データ活用を巡る国際社会の動向、個人情報保護3法の改正と個人情報保護条例の見直しといった制度改正、そして民間企業での取り組みを踏まえた議論を行いました。

開催報告

デジタルガバナンスラボ 
第6回「データ解放に向けたソリューション」2021年3月27日@オンライン

登壇者(敬称略)

飯田陽一 (総務省 国際戦略局情報通信政策総合研究官 / OECD デジタル経済製作委員会議長) 
宍戸常寿 (東京大学大学院 法学政治学研究科 教授) 
宮田裕章 (慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授)

<モデレーター>
工藤郁子 (世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者)

データ流通の国際的な枠組みづくりに向けて

「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の推進」と題する講義を行った飯田さんは、G7やG20といった国際的な議論の場におけるDFFTの位置づけを紹介。国際的なデータ流通の議論は、2016年に高松で開催されたG7「情報通信大臣会合」をひとつの起点に本格化し、自由な越境データの流通の推進と、プライバシーの保護やセキュリティの確保という、一見相反する政策目標のバランスの問題として展開されてきました。自由なデータ流通を重視する米国と、プライバシー保護や消費者保護などを通じたトラストの確保を重視する欧州の立場は対立しがちでしたが、2019年1月のダボス会議にて当時の安倍首相がDFFT推進のための「大阪トラック」の立ち上げを提唱し、トラストを確保することで、自由なデータ流通のいっそうの促進が可能になることを主張して大きく前進しました。

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国境を軽々と超えるデータ流通には、国際的な枠組みが必須であり、必然です。そのため、わが国は現在、データ戦略を策定し、まずデータに関する考え方が近いG7の国々などと議論を重ねてから議論の場を大きく拡大し、「自由なデータ活用や流通が行われながらも信頼・安全性とのバランスが取れ、デジタル技術が人々の幸福をもたらす人間中心の未来社会」というソサエティ5.0のビジョンを共有し、その後の議論の場を大きく拡大し、信頼性のある自由なデータ流通を広げていくという国際展開の道筋を描いています。

次々と顕在化する論点ーー問い続け、議論と検証を重ねる

データガバナンスの課題は民間や公的機関、各地方公共団体それぞれが自らを監督する縦割り型の法制であることにあり、第三者による監督がなければプライバシーの保護水準は向上しないーーー宍戸さんからは「プライバシーとデータガバナンス」というテーマの下、そもそもデータガバナンスがなぜ必要なのか、という問いに対するプライバシー保護や法の視点からの示唆がありました。

一例としてあげられたYahoo!と厚労省の情報提供協定は、Yahoo!側から個人情報保護法について第三者的な監督がないことを指摘し、民間が公的機関の不足しているガバナンスを補うルールで縛ったというこれまでにないケースとのことです。今後、B to GやG to B、あるいはG to Gといったデータシェアリングが起こってきた際には、複雑なプライバシー問題への枠組みに向けたルールの組み替えや、データ共有の主体に対する信頼性を担保できるようなデータガバナンスの構築が必須であるとの見解が共有されました。

データガバナンスについての本格的な議論は始まったばかりです。報道されることの多いLINEの事例ひとつとってみても、多くの論点があります。今こそ何が問題なのかを紐解き、どういう体制を構築していくべきなのかを徹底的に議論し、検証し続けていく重要性が強調されました。

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最大”多様”の最大幸福へ

従来は特定分野に閉じた破壊的イノベーションとして捉えられていたDX。それが今や分野横断的になり、産業や国のあり方を変えるところまで踏み込んできているーーー宮田さんからはデータの活用事例から見たDXの現状についてお話がありました。

まずコロナ禍での給付金を例に挙げながら、これまで平均的にモノ・サービスを届けることだった公共の役割が、一人ひとりを捉えてインクルージョンを実現するという大きな価値と役割のシフトが起こっていることを指摘。そしてそれを可能にするのがDXの重要な役割であると位置づけました。

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民間においても同様です。データの自由化や共有により、ニッチなマーケットであったとしても世界中とつながることができるようになります。例えばNetflixでは一時間の尺にあたり2000個のタグを振って、誰がどの段階で離脱をして、それぞれどういう感想を抱いたのかを分析することにより、個々のニッチな関心に寄り添ったコンテンツの収益化に成功しているといいます。

データの価値解放によって、これまでの最大多数の最大幸福を目指すという社会的な方向性から、最大多様の最大幸福という、多様性を最大化させながら、多様な豊かさが享受できる社会を目指すことができる道筋がみえてきています。問題が顕在化してからでないと手を差し伸べられなかった支援は、データ活用によってもっと手前の段階から寄り添うようなアプローチにできるのではないか。デジタルという選択肢が可能にする新しい行政の役割やビジネスの創造が問われています。

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DXの本質は、分野横断的です。宮田さんは、Appleが自社を人々を健康にする会社だと再定義し、ヘルスケアサービスに舵を切っているのは、病院の中で閉じていた医療サービスがさまざまなデバイスを通じて日常に展開されることにより800兆円市場に成長すると予測されているからだと指摘。これまではシステムや経済合理性が主流だった物差しが、今後はWell-beingで繋がる中で豊かになる、Human Co-beingを目指す意思が未来を作っていくうえで重要であるとのお話がありました。


DXが目指す社会の姿を共有する

データ価値の解放に必要なデータガバナンスは、本格的な議論が始まったばかりです。国際的な枠組み構築に向けた動きも活発化し、国内においてもさまざまな論点がでてきていますが、「一人ひとりのWell-being」といったその目指す先にある社会の姿を共有していくことが、責任あるデータの価値解放には重要だと強く感じました。先日のグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)の冒頭で菅首相が力強く宣言していた「誰も取り残さないためのデジタル活用」という発言も、同様に日本の行政DXの方向性を導いていく指針です。

今回いただいたDX推進のための分野横断的視点と国際的に行われているデータ共有に関する最前線の議論、データ戦略の目的や背景、DX化が起こり国民生活の豊かさが実現した未来への視座といったお話を踏まえ、革新的なソリューション創造に向けて、デジタル時代の”ガバメント”をマルチステークホルダーで検討するべく今後も活動を続けて参ります。

Author:  世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター 甲谷勇平(インターン)
Contributor: 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ティルグナー順子(広報)


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