きみの苦しみを雪みたいに包めたらな。

東京に雪が降るとやかましいくらい雪だ雪だと騒ぐ。
外には誰にもいない白い世界がおもしろかった。触ったら崩れる、踏んだら潰れる。
つくった足跡はまた雪で消される。
歩く度に足を取られてふらつくことすら愛しい気がした。

夜に雪が降ると雪に投影されて影が見えるのも面白い。雪がわたしは非日常だと思ってた。でもくだらない。

小さな一言が、否定につながった。きみのことを否定するつもりはなにもなかった。わたしだけが肯定できればいいと思ってるよ。今もこれからも。誰も、きみのことが分からなくなっても、わたしにもわからなくなっても。きみが自分を分からなくなっても。わたしが言葉を誤った。言葉なんて薄くて重い。伝わらなくていいことは婉曲して伝わって、伝わってほしいことは伝わらない。そんなものなんだよ、言葉の力は。だけど言葉の力を少し信じてるからこうして残すことになる。

信じてるから、嘘じゃないから、そんなつもりなかった。

全部うっすい。でもそれ以上の言葉は見つけられない。言葉を言葉の意味上で伝えること、理解することはとても難しいんだよ。わたしは言葉以上の意味を理解できない。皮肉が分からない。だからきみが今日死にたかったことも分からなかったよ。肯定してあげたかったのに、馬鹿だなあ。わたしは。

風邪ひくから、傘が必要だよ。
ひとりじゃ帰れないから、わたしも帰る。

わたしの言葉全部が敵みたいな世界になってしまったから傘を壊して歩いて行った。あとを静かに追うしか無かった。わたしの傘も半ば破壊されていてそんなことはどうでもよくて、わたしの髪、きみの髪は雪で滴っていた。

突然全てが嫌になる、いやもう既にいやだったんだ。その気持ちがほんの少しだけわかるわたしにはそんな人にもっと頑張れなんて言えない。でも生きてほしい。それだけだ。生きる希望が、ちょっとでもいいからわたしであってくれたらもっといい。このクソつまんない毎日でわたしが少しでも面白みになってくれてたらそれでいいよ。多分わたしは面白いから。

きみがヒステリックを起こすのは、わたしが人といないと死んでしまうことと同じことなんだよねきっと。わたしが死にそうなときはたすけてくれたよね。だからわたしはきみがどんなにわたしを不要としても、絶対について行くと決めた。わたしだけがきみだけを見てる、救えるよきっと。
きみが思うより、わたしはきみに捧げているのよ。
きみのヒステリックとわたしの執着心は似てるようなものなんだよ。

よたよたしながら煙草を買いにまた豪雪の外を歩く。
暗くない白くなった夜、丸い影が落ちる夜を、
この上なく急いで歩いた。傘を外して、当たる雪たちが美しい。
わたしの足元はまた濡れる。
ご希望の煙草は見つけられなかった。

わたしの好きなマルボロのメンソールはどうかな。きみは昔、いい煙草だと言ったよね。覚えてるよ。

雪だから死ねると思ったきみは、死ねなかった。

雪なんか、なにも特別じゃない。
次の季節の約束をしたから、きみはこの季節のうちは死ねないよ。いつまでも次の季節の話をしよう。来年の桜を見る約束を去年した。
来年も見ようと言ったら、きみは笑った。だからわたしは忘れない。
夏には海辺を歩く約束をしたよね。まだ夏は来ない。
足跡のない雪の上を歩けないのと同じようにまだ僕たちは冬に閉ざされているの。

ぼくはきみを、理解できない永遠に。
理解しない。それはお互いに。
補完しあえたら、僕たちはもう終わりだ。
だけどそばには居れる。
言葉が難しいならそばに居よう。言葉はそんなに強いものじゃないんだよ。

今日死ねなかったことに意味は無いよ、ただそういう日じゃないだけだよ。多分。
でもきみはぼくにとっては、すごく魅力的だったしぼくをいつも知らない世界に連れていった。ただそれだけのことで、ただそれだけのことがぼくにとっては、この上なく尊い。
だからきみは自分のことをそんなふうに言わないで、きみを尊敬するぼくのきもちは埋められてしまう。ぼくのわがままだけど、きみのことを大事に思うからそんなふうに言わないでよ。

雪はいつ止むのか知らない。当たり前のように日々は続く。みんな完全なる目的なんかどこにもないのに生きる。生きる意味なんて、特にない。でもただ誰かと一緒に居たいとか、それくらい単純なことだと21年しか生きてないけどわたしは思うよ。

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