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無断録音の証拠能力 【判例紹介】

証拠能力とは、裁判で証拠となり得る資格(証拠適格)です。
証明力とは、証拠が裁判官の心証に及ぼす力を指し、実質的な証拠の価値(証拠力)のことです。

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襲撃の録画映像は犯行の重要な証拠になりますが、刑事訴訟法上、証拠能力を厳格に制限しています。たとえば、無理やりさせた自白は証拠になりません。(違法収集証拠排除法則

刑事訴訟法第319条1項
強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

また、違法に集められた証拠物の取り扱いについて、判例は、以下のように示しています。【最高裁昭和53年9月7日判決

証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。

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一方、民事訴訟法は、一般的に証拠能力を制限する規定を設けていません。

民事訴訟法(自由心証主義)第247条
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

無断録音されたテープの証拠能力について、裁判例は、以下のように示しています。【東京高裁昭和52年7月15日判決】

自由心証主義(民事訴訟法247条)を採用している現行法の下では,当事者の提出する証拠については,原則としてその証拠能力を肯定すべきであり,ただ,その証拠が著しく反社会的な手段を用いて,人の精神的,肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときに限り,その証拠能力は否定されると解するのが相当である(東高民時報28巻7号162頁)

また、秘密録音の人格権侵害について、

話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当つては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当(判例時報867号60頁)

とした上で、当該判決では、無断録音が、著しく反社会的な手段方法による人格権侵害があるとまではいえないとして、証拠能力が認めらました。

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反対に、相手方の同意なしに対話を録音することを、相手方の人格権を侵害する不法な行為と言うべきして、証拠能力を認めなかった裁判例もあります。【昭和46年11月8日大分地裁判決】(判時656号82頁)

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また、非公開であるハラスメント防止委員会の審議内容を無断録音した民事事件で【東京高裁平成28年5月19日判決】 は、以下のように示しています。

民事訴訟法は、自由心証主義を採用し(247条)、一般的に証拠能力を制限する規定を設けていないことからすれば、違法収集証拠であっても、それだけで直ちに証拠能力が否定されることはないというべきである。しかしながら、いかなる違法収集証拠もその証拠能力を否定されることはないとすると、私人による違法行為を助長し、法秩序の維持を目的とする裁判制度の趣
旨に悖る結果ともなりかねないのであり、民事訴訟における公正性の要請、当事者の信義誠実義務に照らすと、当該証拠の収集の方法及び態様、違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性、当該証拠の訴訟における証拠としての重要性等の諸般の事情を総合考慮し、当該証拠を採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法 2 条)に反するといえる場合には、例外として、当該違法収集証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。

その上で、当該判決では、訴訟法上の信義則に反し許されないというべきであり、証拠から排除するのが相当であるとして、録音した媒体の証拠能力を認めませんでした。

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以上のように、個々の事件の態様によって、判決の結果は分かれると言えます。また、訴訟上、無断録音/無断録画の証拠能力の適否の判定とは別に、人格権侵害の問題が別に存在します。

換言すれば、無断録音/無断録画が人格権侵害と認定された場合、不法行為責任(民法709条)が生じるため、録音者/撮影者は、損害賠償請求される可能性があるということです。

民法(不法行為による損害賠償)第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


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豚子(本名)


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