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パラレルワールド

パラレルワールド

R国

ピスカフ大統領報道官

「大統領、おはようございます」

「ああ、おはよう。

何か変わったことはないかね」

「それが‥」

「どうした?何かあったのか」

「極めて奇妙なことが‥」

C国

主席秘書官

「おはようございます。総書記」

「おはよう。今日の予定はどうなってたかな」

「はい、その前に奇妙なことが‥」


R国、C国をはじめ独裁国家と呼ばれる全ての国の独裁者官邸で同じような会話が繰り広げられる。


「なに!国民がいない?!」

「はい、国に忠誠を誓った政府幹部以外は‥」

「一般の人民が全ていなくなったということか?」

「はい。その為、電気、ガス、水道等全てのインフラがストップしております。

ここは、現在自家発電装置で維持しておりますが、それも2、3日で停止します」

独裁者は絶句し、言葉が出ない。

「ご安心ください。全国のスーパーマーケットの食料品売場はそのままですので、食料には事欠きません。しかもただです」

「‥‥」

「‥‥」

「あ、あの‥

ち、地球規模で同じような状況ですので敵が攻めてくるようなこともありません」

「‥‥」

「‥‥」

「さ、さらに政府にたてつくような連中も全ていませんので、これまで以上にやりたい放題です」

「‥‥」

「‥‥」

「そ、その上‥」

「君は少し黙っていなさい」

「あっ、はい」


「うーん‥

つまり、へつらい者以外は誰もいないと言うことか‥

ちょっと私の妻に連絡をとってくれないか」

「そ、それが女性は一人もいません‥」

「ということは、数百人のへつらい者の男だけが残っているということかね」

「はぁ」

「軍隊は?」

「無能な制服組の幹部以外はゼロです。

全ての兵器は使用できる者がいませんので、ただの鉄屑です。

通信も今日中には全世界でストップするものと思われます」

「各国首脳と連絡が出来なくなるということか?」

「はい。

しかし、アメリカをはじめ西側諸国は全てゼロ人ですので、いつでも征服出来ます!」

「軍隊もいないのにどうやって征服にいくのかね」

「皆、車の運転くらいは出来ますので、バスとかに乗って‥」

「海は?」

「皆、オールくらいは漕げると思いますので‥」

「それで、太平洋を渡るのかね」

と言った会話がつづけられる‥


一方、

「臨時ニュースをお伝えします。

全世界で突然、独裁者がいなくなりました。

原因は不明です。

R国、C国をはじめとした世界中の独裁国家は民主的な臨時政府が発足した模様です。

また、国連の主導で緊急会合が開かれる模様です」

といった報道が世界中を駆け巡る。

世界中で繰り広げられていた紛争は全て停止され和平交渉が開始される。


そんな中、独裁国家では、

「とりあえず食事でもしながら、今後の対策を考えようじゃないか」

「私を含め、幹部に食事を作れるものはおりません。

カップラーメンとかいう物なら何とか作れるかもしれないと‥‥」

「日本製ですが、もしかして汚染されているのでは‥」

「バカもん!

あれは方便だ。我が国の物より日本製の物の方が安全に決まってるだろ!」

「!!!

待てよ。世界中で独裁者とその取巻きだけが居て、それ以外は居なくなったということは、その反対の世界もあると言うことか?」

「さすが、我らの独裁者!」

「君、少し態度がぞんざいになってないか?」

「け、決してそのようなことは‥」

「ならいいが、

うーむ、パラレルワールドということか‥」


一方

「臨時ニュースをお伝えします。

世界の主要国家では、これまで投じられていた軍事産業への莫大な予算が、

医療、農林水産業、社会福祉、開発途上国への支援といったものに投じられ

る動きが加速し、地球規模でこれまでにない素晴らしい国造りが進行しよ

うとしています」


他方、独裁国家では

「今日の議題はなんだったかな?」

「はい、だいぶ暑くなってきましたし、誰も見てる者もいないので、暑苦し

いスーツ、制服はやめてパンツにステテコで出席してもよいのではという貴

重な意見が出ているのですが‥」

といった重要な会議が続けられる。


なお、ピスカフ大統領報道官

「大統領、これでウクライナと言わず全ヨーロッパが我々のものです。

おめでとうございます」

「めでたいかね・・・

領土というものは、嫌がるものを無理やり強奪するものだよ。

でも、まあそうだな、残っている者に一人一国与えよう」

「すごいことですね。

ところで、大統領、一人一国もらって何をするんですかね」

「ほんとの意味での独裁だろ」

「面白いですかね」

「面白いわけないだろ!」

と言った充実した会話が続くのである。



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