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光明 第4章

第4章
驚愕

「エミリ、どうかねミッシェルの分析の方は」
「先生、今回はビートルズとは何の関係もありません。ミランダですよ」
エミリは今日のカチンスキは、いつもと違うと思った。
「先生、何かいいことでもあったのですか?」
「うむ、ミランダの点滴が外れたらしい」
「えっ、脳活動が普通になったのですか?」
「それが、さしたるエネルギーを消費せずに、驚異的な能力を発揮しているらしい」
「順応?・・・安定したということですか?」
「その可能性は高い」
「やっぱり・・・」
「ん?どういうことかな?」
「実は、ミランダの脳のMRI解析中に見かけない影を見つけたんです」
「マシンの不具合じゃないのかね」
「勿論、私もそう思いました」
「誰もが見過ごすような影なのですが、私には見過ごすことが出来ませんでした」
「で、それがどうかしたのかね」
「はい、私には超微細なウィルスに思えるんです」
「ミランダが脳症にでもかかっているのかね」
「先生、極めて突飛な推測を言ってもよろしいですか?」
「脳科学を極めた君の推理だ。聞こうじゃないか」
「ありがとうございます」
「私は、このウィルスが人間の脳活動を制御していたある物質を死滅させたのではないかと・・・」
「・・・・・」
「そうすると君は、人間が生存するため脳の消費エネルギーを抑える必要に迫られ、脳活動を制御していた何らかの物質が存在し、尚且つ、それをウィルスが食ったとでも言うのかね」
「おっしゃる通りです」
「君、そんなこと言ってたら、のべつ突然変異が起こってるじゃないか」
「そのウィルスが数十万年に一定時期存在するものだったとしたらどうでしょうか?」
「・・・・・」
「人類の進化のスウィッチだと言いたいのかね」
「その影は、採取できるのかね」
「できません。脳の最深部です」
「そうか、もちろん今も活動中なんだね?」
「いえ、死滅していると思われます」
「そうすると、そのウィルスは人類の進化のトリガーとしての役割のみで数十万年に一度存在するということなのだね」
「そうとしか思えません」
二人とも押し黙ったまま口を開こうとしない。
重苦しい沈黙の時間が流れる。

カチンスキは絞り出すように
「エミリ、私はこれまでの研究人生で、これほどの驚きを覚えたことはないよ。
 人類進化の何らかのトリガーの存在を考えてはいたが、口に出すことは憚られた。
君の考えがそこに至ったことは、感無量だよ。
しかし、まだまだ可能性の段階だ。
エミリ、これからも宜しく頼むよ」
「はい!」

                          つづく

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