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井坂勝之助 その18

子供ながらなかなかの集中力・・・などと思っていると子供の右手から細竹が投げられた。
少しの間、川面を見詰めていたが、すぐに真反対側に向き直り再び川面を見詰める。

「ははぁ、可哀そうに魚は獲れないようだな・・・」

少年は同じ作業を何回か繰り返し、持っていた細竹は無くなった。

「今日は不漁のようだな。ははは・・・」

勝之助、笑いながら少年に近づこうとした瞬間、少年が何かを手繰り寄せる仕草をする。

「ん?・・・」

驚いたことに先程来、投げていた細竹には紐が付けられており、
それを手繰り寄せていたのだ。

「ほーっ、これは無駄の無いことだ」

と感心していると、少年に手繰り寄せられた細竹の先には全て川魚が刺さっておりピチピチと跳ねている。

「な、なんと!・・・」

勝之助、目を丸くして息をのんだ。

「お兄ちゃん、さっきからずっとおいらのことを見てたね」
という少年の言葉で我に返った。

「ぼ、ぼうず、お兄ちゃんにもやらせてもらえないか?」

「ん?何をだい?」

「その細竹で魚を突いてみたいのだ」

「いいよ」と、屈託がない。

少年は手際よく魚を細竹から外し、岩の上に置いていた笹に魚のえらを通し、細竹を勝之助に差し出す。

手に取ってみると、燻してでもいるのか細竹は茶色く節はきれいに削られ、
驚くほど真っすぐで軽い。
先端は鋭利に削られ若干の返しも施している。

「よく出来ているな・・・」

「そうかい、じっちゃんが作るんだ。羽を付けて鳥を弓で射落とすのもあるよ。
 早くやってみなよ。そろそろ帰らなきゃいけないんだ」

勝之助は先程少年が立っていた岩場に立ち、同じように川面を見る。
「なるほど、結構いるものだ。ははは、これは存外簡単なものだな」
勝之助、一尾の魚に目星をつけ投げる頃合いをはかる。

が、投げられない・・・その魚を追いきれないのだ。

仕方なく、二~三尾固まっているあたりに思いっきり細竹を投げ込む。
紐を手繰って穂先を見るが何も刺さってはいない。

「あはは、お兄ちゃん、それじゃいつまで経っても魚は突けないよ」

「お兄ちゃん、見てなよ」

すると少年は何の躊躇いも無く、小さく手首を利かせて細竹を投げる。
紐を手繰り寄せるとみごとに魚は貫かれている。

「これはいったいどういう事なんだ・・・」

「お兄ちゃん、修行が足りないよ。修行が、あははは・・・」

「お兄ちゃん、旅の途中だろ。もう陽は落ちるよ、今夜はうちへ泊んなよ。さあ、行くよ」

勝之助、仕方なく少年に従う。

つづく

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