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火付盗賊改方 その3

火付盗賊改方 その3

長谷川平蔵役宅

「この頃は、悪党どもがやけにおとなしくしておるようだな。
何か情報は入らぬか」

「そうですね、密偵からも何も連絡がありません。まぁ、平和で良いと言えば良いのですが何とも皆暇を持て余しておるようで‥」

「うむ、密偵を数名呼んでくれぬか。
世間話でもしながら様子を聞いてみよう」

数日後、密偵数名が平蔵宅の庭先に控える。

「おうおう、今日はわざわざすまねぇな。
あっ、そこじゃ落ち着かぬ。まぁこちらへ上がんな。
おーい、皆に茶菓子でも出してやってくれ」

「勿体ねぇことで、誠に恐れ入りやす」
と、熊八、五郎兵衛、おせんと深々と頭を下げる。

「なーに、そんなに恐れ入ることはない。
ところでだ、近頃は世間が妙に静かじゃねえか。静かすぎるのがちょっと気になってな。
報告するような情報ではなくとも何かひっかかるようなことはねぇかと思ってな。
茶でも飲みながら皆の話が聞きてぇ訳だ」

「それが‥」と、熊八、口籠もる。

「おっ、何かあるのか?」

「へぇ、・・・

近頃は例の暴れ過ぎ将軍、遠山の銀さん、破傘刀臭、桃次郎侍、銭好き平次、それに加えて仕事人とか仕置人と呼ばれる連中までが悪人を始末しております。

先月からは、全国行脚を終えた水戸赤門と助兵衛、角兵衛の三人までもが江戸へ出張っております。

特に暴れ過ぎ将軍は毎週毎週、数十人の悪人を成敗しておりその数たるや年間に千人以上に上ります。

ということで、今江戸は悪人はおろか男の数が激減しております。

今や悪人は絶滅危惧種になっており、巷では、江戸郊外に悪人の保護区を作って全国から悪人を集めて来て、育成してはどうかなどと馬鹿げたことを申す者までいるやに聞いております」

「何!暴れ過ぎ将軍だけで年間千人以上?
そうすると、それ以外の連中の数を入れると年間数万人単位で悪人がいなくなってると言うことか!」

「はい、仰せの通りで‥」

「うーむ、このままでは我らは失業してしまうな‥」

「いえ、江戸に人が居なくなります」


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