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井坂勝之助 その20

虎千代
 
何やら庭で子供達が剣術の稽古らしきことをしているようである。

手に握り締めているものは木刀ではない。

子供が振ってもしなるような若竹である。

剣術と呼べるようなものではないが、勝之助思わず見入ってしまう。

むやみに振り回しているわけではなさそうだ。

切り込めばかわし、反撃に出る。

鍔迫り合いのようなものは一切無い。

脚を払うような切り込みには時には飛んで、大上段から振り下ろす。

「いかがですかな。なかなかのものでしょう」

いつの間にか、隣に長時が立っている。

「これはこれで立派な立ち合いになってますな」

「歩き始めた頃から毎日やっております。
これに関しては、大人も虎には敵いませぬ」

「なんと!‥
大人がですか?」

「いかにも‥
勝之助殿、試されますか?」

「はい、これも修行と思いますれば」

「止めい!
虎千代、勝之助殿と立ち会ってみなさい」

「はい、承知致しました」

「勝之助殿、これをお使い下さい」

と言って手渡されたものは。

長さ三尺程の細竹である。

「なるほど、これでは両手で斬り合うより片手で振り回した方がよさそうだな‥」

勝之助、片手で細竹を持ち、虎千代に向き合い、一礼する。

「始めい!」

勝之助、片手で持った細竹を前方へ向け構える‥

と、虎千代がいきなり地面を蹴ると袈裟懸けに打ち込んでくる、勝之助型通

り受け、弾き返そうとした瞬間、胴をものの見事に打ち抜かれた。

「な・・・なに?」

「勝負あり!」

勝之助、何がどうなったのか理解出来なかった。

長時
「さぞ、驚かれたでしょうな」

勝之助、相変わらず呆然としている。

「毎日やっておりますれば、二、三日じっくり観察されるがよろしかろう」
 

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