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井坂勝之助 その23
抜刀術
早いもので、勝之助が長時の世話になって半年の歳月が流れた。
長時のたっての願いで、二月ほど前から勝之助は村の男達に剣術の指南をしていた。
毎回、子供から大人まで七〜八十人は集まっていたであろう。
素振り、竹刀での打ち合い、真剣での型等々、多岐にわたる。
長時の話では、この集落から山を三つほど超えた奥まったところに山賊のような輩が暮らす集落があるという。
これまでに数回、襲撃してき
井坂勝之助 その22
虎千代 3
その後
勝之助は常に虎千代と行動を共にした。
青竹を持っての打ち合いを見学し、川に魚を突きに行き、また山へ狩猟に出かける。
時には畑仕事にも精を出した。
勝之助にとっては全てが修行であり、またそのように考え行動し、無駄に時を過ごしているという感覚はまるでなかった。
そのような考えで行動していると、瞬く間に時は過ぎ、三月の時が流れた。
そんなある日、
「虎師匠、今度は私に魚
井坂勝之助 その21
虎千代 2
武者修行に出る前の一年間、どのような相手であっても一度も遅れをとるようなことはなかった。
それがどうだ、子供の遊びのようなものとは言え、剣術の立ち合いの体をなしている。
負けるはずがない‥と思っていた。
しかも相手は年端も行かぬ少年である。
勝之助は悔しさよりも、世の中というものの広さを感じた。
剣の道に慢心は禁物・・・
勝之助は心に刻んだ。
虎千代の魚を突く技
井坂勝之助 総集編(未完)
井坂勝之助 その1見切り
浮きはぴくりとも動かない。
空気は澄み渡り、心地よい。
海は満潮時か川面は少し膨らんでいる。
「殿様・・・」
梅が徳利を掲げる。
「うむ」
梅は江戸では名の知れた料亭の娘である。
船梁に浅く腰を据えた井坂勝之助、梅の酌を受ける。
梅の頬は少し紅い。
化粧をしていないのである。
船頭のはからいで、徳利、お重を置く渡し板、梅の座る莚。
この船頭、なかなか気が利く。
名は