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【能登半島地震】被災の總持寺祖院、僧侶ら避難所で炊き出し

※文化時報2024年1月19日の掲載記事です。写真は甚大な被害を受けた祖院の門前町。

 元日に最大震度7を観測した能登半島地震で、奥能登の大刹(たいさつ)、曹洞宗大本山總持寺祖院(石川県輪島市門前町)は大小約30の伽藍(がらん)が損壊した。開山の太祖・瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)禅師700回大遠忌の年に、精神的支柱が損傷を受けたことで、宗門関係者や門前町の住民には落胆が広がっている。自らも被災者となった祖院の僧侶たちは、避難所で炊き出しを行うなど、懸命に人々を励まそうとしている。(高田京介)


前回上回る被害か

 總持寺祖院の歴史は1321(元亨元)年、瑩山禅師が前身の諸嶽(もろたけ)観音堂に入り、名を總持寺と改めたことに始まる。禅師に帰依した後醍醐天皇の勅願所となり隆盛を極め、大本山永平寺(福井県永平寺町)と並ぶ曹洞宗の故山となった。

 1898(明治31)年の火災で焼失し、總持寺は寺基を現在地の横浜市鶴見区に移した一方、元の伽藍も再建され、總持寺祖院として人々の信仰を集めてきた。

 2007(平成19)年に最大震度6強の地震でも壊滅的な被害を受けたが、14年の歳月と総事業費約40億円をかけて復興を遂げ、開創700年を迎えた21年に落慶法要が営まれた。

 今回の地震では、加賀藩祖・前田利家の妻・お松をまつる塔頭(たっちゅう)芳春院が全壊。07年の地震後に改修した箇所も大規模に損壊し、約33メートルある回廊「禅悦廊」が崩れたほか、坐禅堂など諸堂の屋根瓦も剝落した。

全壊した塔頭芳春院

 高島弘成副監院(50)は発生当時、震度7を観測した志賀町にある自坊の龍護寺にいた。「1度目の地震で祖院に連絡を取っている最中に大きな揺れが来て、電話が切れた」。国道が通行止めになるなど移動は困難を極めたが、3日には何とか祖院に戻った。それ以降は修行僧3人と共に避難所生活を送っている。

 「想像をはるかに超える被害だった。復興までには前回と同じか、それ以上はかかるだろう」。そう話しながらも「今は目の前のことに、禅僧として関わっていきたい」と決意している。

社会に関わる禅僧

 高島副監院は全国曹洞宗青年会(全曹青)に所属。07年の地震で災害ボランティアとして活動し、11年の東日本大震災では傾聴僧として被災者支援に携わってきた。「社会に関わる禅僧として、何かせずにはいられなかった」

 それが今回、再び被災者となった。

 石川県の15日の発表によると、輪島市では88人が亡くなった。多数の建物が倒壊し、市内のほぼ全域に当たる約1万戸で断水しているほか、約5200戸で停電が続いている。避難所149カ所に6千人余りが避難している。

 門前町は、朝市通りなどのある輪島市中心部から約20キロ離れている。總持寺祖院のほか、奥能登最古の真宗寺院として知られる真宗大谷派の阿岸本誓寺(阿岸宏照住職)もあって仏教色豊かなまちだが、今回の地震ではその多くが被災した。「ただでさえコロナ禍で過疎化が加速していた。地震で住民の心が折られたことは、寺の被害より大きいかもしれない」。高島副監院は顔を曇らせる。

祖院山門。今年瑩山禅師700回大遠忌法要を営む方針だった

復興のシンボル再び

 瑩山禅師700回大遠忌に向け、祖院は昨年11月に坐禅プロジェクトの会場になった。21年の「完全復興宣言」以降、門前町との関係強化に努めており、伽藍のプロジェクションマッピングや地域文化を発信する輪島市の事業にも積極的に参加してきた。

 今年は記念事業として、これらの取り組みを生かすイベントの開催を目指していた。大遠忌法要を9月に営む方向で協議し、機運を高める矢先で災禍に見舞われた。

 高島副監院は「大遠忌の事業は青写真すら描けない状況」と落胆しつつ、「前回の地震では祖院が復興のシンボルになった。体制が整えば、協力を募ることになる」と意欲を語った。

 曹洞宗系の団体では、シャンティ国際ボランティア会(SVA)の中井康博さんが東光寺(石川県七尾市)に入り、門前町を拠点にしている。SVAは輪島市から支援要請を受け、今後は門前町の避難所で炊き出しを実施。全曹青も松山寺(金沢市)と月心寺(同市)を拠点にした活動を模索している。

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