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【徒然草 現代語訳】第九十八段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。


原文

たふときひじりのいひ置きける事を書きつけて、一言芳談とかやなづけたる草紙を見侍りしに、心にあひて覚えしことども。

一、しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。

一、後世を思はむ者は、糂汰瓶一つも持つまじきことなり。持経、本尊にいたるまで、よき物を持つ、よしなきことなり。

一、遁世者は、なきにことかけぬやうをはからひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。

一、上臈は下臈になり、智者は愚者になり、徳人は貧になり、能ある人は無能になるべきなり。

一、佛道を願ふといふは、別のことなし。いとまある身になりて、世の事を心にかけぬを、第一の道とす。

この外もありしことども覚えず。

翻訳

尊い聖が折々に云い遺したことを書き留めて、一言芳談とか名付けた書物を見る機会があった際、以下のような言葉が心に響きました。

一 やった方がいいのか、やらない方がいいのか迷った時には、たいていやらない方がいい。

一 極楽往生を本気で願うなら、糠味噌桶のひとつも持ってはならぬ。手元のお経にせよ、日々掌を会わせる仏像にせよ、いわゆる上物を持つのは無駄というもの。

一 俗世を離れて仏道に専念する者は、何かがなかったり足りなかったりしても悠々自適に暮らせる術を身につけて暮らす、それが最善のありようだ。

一 身分の高い者は低い者の、智者は愚者の、金持ちは貧乏人の、才能のある者は無能な者のそれぞれの身になってみるべきだ。

一 仏の道を志すことは、なにも特別なことじゃない。暇を持て余すほどの身になり、俗世間のことに一切心を動かされない、まずはここが手始めである。

他にもいろいろ引っ掛かった言葉はあったが、もう覚えていない。

註釈

○一言芳談
読みは「いちごんほうだん」。

○後世
読みは「ごぜ」。

○遁世者
読みは「とんせいじゃ」。

○徳人
読みは「とくにん」。得人に同じ。金持ちのこと。

○別
読みは「べち」。



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