見出し画像

【徒然草 現代語訳】第百六段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

高野の証空上人、京へのぼりけるに、細道にて、馬に乗りたる女の行きあひたりけるが、口ひきける男、あしくひきて、聖の馬を堀へおとしてけり。

聖いと腹悪しくとがめて、こは希有の狼藉かな。四部の弟子はよな、比丘よりは比丘尼はおとり、比丘尼より優婆塞はおとり、優婆塞より優婆夷はおとれり。かくのごとくの優婆夷などの身にて、比丘を堀へ蹴入れさする、未曽有の悪行なりといはれければ、口ひきの男、いかに仰せらるるやらむ、えこそ聞きしらねと言ふに、上人なほいきまきて、何といふぞ。非修非学の男」と荒らかにいひて、きはまりなき放言しつと思ひける気色にて、馬ひき返して逃げられにけり。

尊かりけるいさかひなるべし。

翻訳

高野の証空上人が京へのぼった折、細い道で馬に乗った女と擦れ違おうとした際に、馬の口取りの男の引き方が悪く、上人の馬を堀に落としてしまった。

上人は激怒して怒鳴りつけ、狼藉にもほどがある!いいかよく聞け!釈尊の弟子には四つある。僧より尼僧は劣り、尼僧より在家の男は劣り、在家の男より在家の女は更に劣るのだ。最底辺の在家の女の分際で、僧を堀に蹴り入れるなどとは前代未聞、悪行もここに極まれりだ!とまくし立てたところ、口取りの男は、何を仰っておられるのか、わたくしにはちんぷんかんぷんでございます、とぽかんとしているので、上人はいっそう息巻いて、口を慎めこの無学文盲がっ!と声を荒げた、次の瞬間ふと我にかえったのか、暴言が過ぎたとばかり馬を返してそそくさとその場を立ち去った。

ざぞや尊い口喧嘩だったんじゃないかなー。

註釈

○高野の証空上人
実は詳細不明。ただし、法然の弟子に同名の僧侶はいるらしい。


いかにも兼好好みのネタ。
坊主の大半はこんなもんでしょ。

この記事が参加している募集

古典がすき