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【徒然草 現代語訳】第百三段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞなぞを作りて解かれける処へ、くすし忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、我が朝の者とも見えぬ忠守かなと、なぞなぞにせらけにけるを、唐瓶子と解きて笑ひあはれければ、腹だちて退り出でにけり。

翻訳

後宇多法皇の仙洞御所大覚寺殿にて、お取り巻きたちがなぞなぞを作っては解いて遊んでいた、そこに医師の忠守が参上したので、侍従大納言公明卿が、おっと本朝の者とも見えない忠守じゃないか、となぞなぞにし、そのこころは「唐瓶子」と解いてどっとウケたのに忠守はいたく立腹し、退出してしまったという。

註釈

○薬師忠守
宮内卿丹波忠守。医師であると同時に歌人でもあり、当時の「源氏物語」研究の大家でもあった。丹波氏は渡来人の一族。

○侍従大納言公明卿
権大納言三条公明(きんあきら)。鎌倉時代末期から南北朝にかけての公卿。

○唐瓶子
からへいじ。支那の徳利。


まずはなぞなぞの意味を解かないことには、なにがなんだかの段でしょう。

前提として、当時の医師が唐風のいでたちだったこと、忠守が異例の出世を遂げ、周りからやっかまれていたという背景があります。
「忠守」という名前がいかにも平家一族風の名前であること(実際、清盛の父の名前が読みが同じ平忠盛)、平家はすでにこの世に存在しないこと、後、一説には平忠盛と忠守が同じ斜視だったという話もあります。
そこに丹波一族の出自を被せてからかった、というわけです。

幾重にも手の込んだハイブラウな嫌味ですが、通じなかったら通じなかったで、蔭でクスクス嘲笑われたにちがいありませんから、宮仕えもなかなかハードございますわねぇ。

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