見出し画像

【徒然草 現代語訳】第百九段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

高名の木のぼりといひしをのこ、人をおきてて、高き木にのぼせて梢を切らせしに、いとあやふく見えしほどはいふこともなくて、おるるときに、軒長ばかりになりて、あやまちすな。心しておりよと言葉をかけ侍りしを、かばかりになりては、飛びおるるともおりなむ。如何にかくいふぞと申し侍りしかば、そのことに候。目くるめき、枝危ふき程は、おのれが恐れ侍れば申さず。あやまちは、やすき所になりて、必ず仕ることに候」といふ。

あやしき下臈なれども、聖人のいましめにかなへり。鞠も、かたき所を蹴出してのち、やすく思へば、必ず落つと侍るやらむ。

翻訳

木登り名人として知られた男が、弟子に指示して、高い木に登らせて枝を伐採させた際に、かなり危険と思われるあたりにいた時には何も云わず、ずっと下がって軒の高さまで降りてきたところで、へまをするなよ!心して慎重に降りろ!といきなり声を掛けたのでございます、怪訝に思い、あの辺からなら充分飛び降りることも出来るだろうに、なんでまたあそこで注意を促したのだ?と問いましたら、そこでございます。くらくらするよな高さにいて危なかしい細枝に足をかけている時には、怖くて怖くて仕方がないので重々用心いたしますから、敢えて何も申しません。失敗は気持ちが弛んだところで必ず起こるものでございます、と云う。

賤しい身分のいい草だが、実に聖人の金言に敵っている。蹴鞠においても、蹴りにくいところをクリアして、やった!と油断した途端に、決まって毬を落としてしまうと云うではありませんか。

註釈

○おきてて
掟て。指示、指図して。

○軒長
読みは「のきたけ」。


兼好はほんと職人さんが好きですねぇ。私も嫌いじゃありませんけど。
西洋と東洋の一番大きな違いは、職人の社会的地位だと云われたりもしますが、近頃のたかだか十年二十年程度の職人でずいぶん知ったふうな口を利く者が多いのは、あれはコンプレックスの裏返しなんでしょうかねぇ。それをまた「生き様(ゲーッ)」とかって持ち上げる方も持ち上げる方ですけど。

この記事が参加している募集

古典がすき