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私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #40 【38日目】ようやく見つかった答え、ゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラへ到着

こんにちは、ナガイです。今日はオ・ペドロウソからサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)へ向かいます。
前回の記事はこちら。

天気予報(サンティアゴ・デ・コンポステーラ) 曇り時々晴れ 最高気温23℃ 最低気温11℃

5時半起床。もう朝の支度は手慣れたものだ。ほとんど明かりが無くてもスルスルと準備を進められる。
6時出発。外は少し湿気を感じるがベストの気温だ。町を抜けると山道に入る。iPhoneのライトで照らしながら歩く。

早朝は誰にも会わないことが多いが、今日は前を歩いている巡礼者が何人かいた。今朝の月は半分雲に隠れて遠慮がちにこちらを見ている。

7時前にアメナル(Amenal)の村を通過。何軒かバルがあるが、まだどこもオープンしていないので先へ行く。

自分は少し歩くのが早過ぎるのかもしれない。だから大事なこともたくさん見落としてきているのだろう。きっとスペイン巡礼を通じて、自分の歩くスピード、すなわち人生のペースを見直す人もいるのだと思う。でも、毎日歩き続けた結果、自分にとっては結局この速さで歩くのが一番ちょうどいい負荷と心地よさなのだということが分かった。時には負荷が辛くなる時もあるが、最終的にはこうしてなんとか歩き続けてゴールまで辿り着けることも分かった。自分のこれから先の人生もこれくらいのスピードで、もうしばらくは進んでみよう。それでまたいつか歩く速さを見直したくなったら、もう一度この道に帰ってくればいい。今、ようやく答えが見つかった。

安堵感や達成感がごちゃ混ぜになったような感情が込み上げてきて半泣きになっているのを悟られないように「ブエンカミーノ」と言って、また一人追い抜いて先へ行く。

7時半頃にサンティアゴ・デ・コンポステーラ空港の脇を通過。日本人巡礼者のMさんはここから飛行機に乗ってマドリードまで移動すると言っていた。そういえばマドリードへの移動手段をまだ押さえていなかったので後で調べよう。

路上で立ち止まって熱いくちづけを交わしている男女がいる。今ならそうしたくなる気持ちも理解できる。いつもは他の巡礼者を追い抜く時には挨拶することを欠かさないようにしているが、この時ばかりは二人の世界を邪魔しないように黙って横を通り過ぎた。

7時半過ぎにサン・パイオ(San Paio)の村を通過。先ほど通過した空港から飛行機が滑走路を走って飛び立つ音が聞こえる。今日も世界は動いている。

8時頃にラバコージャ(Lavacolla)の村を通過。昨日余裕があればここまで来ようと思っていた村だ。

そしていよいよ残り10km。10.000kmと10kmちょうどを示す道標があった。

歩いていると男性に話しかけられる。彼はドイツから来たハンス。彼は以前フランス人の道を歩いたことがあるそうで、今回は北の道を歩いてきたそうだ。しばらく一緒に歩きながら話す。

9時頃にサン・マルコス(San Marcos)の村を、9時過ぎにモンテ・ド・ゴゾ(Monte do Gozo)を通過。ついにゴールのサンティアゴ・デ・コンポステーラの街並みが見える。そして、その中には大聖堂の尖塔も見える。ゴールはすぐそこだ。

モンテ・ド・ゴゾには巡礼路上で一番大きなアルベルゲがあり、広大な敷地に同じような建物がいくつも並んでいた。

9時半頃にバルの前を通過。すでに3時間半歩き続けているので休もうか迷ったが、今日はひとまずゴールしておきたい気分だ。ここで休んでいくというハンスに別れを告げて先へ行く。いよいよサンティアゴ・デ・コンポステーラの街へ入った。

日差しが強くなってきた。4時間以上休みなく歩き続けるのは今日が初めてかもしれない。最後に上手な休み方ができなかったが、最後だからいいだろう。

肩にバックパックの重さがのしかかってくる。早く終わってほしい気持ちと、終わるのが惜しい気持ちが交錯する。もう息も絶え絶えだ。最後は気力だけで歩く。

徐々に通行人が増えてきて街の中心部に近づいているのが分かる。サン・マルティーニョ・ピナリオ修道院の前を通過する。路上でバグパイプを演奏している人がいて、それが到着を祝福する音楽のように聞こえてグッとくる。

そして、午前10時11分、ゴールであるサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の前に到着。

大聖堂前の広場には到着を喜ぶたくさんの巡礼者がいる。シンとアン、クリスティアーノ、シヴと会う。全員会いたかった人達だ。自分が着いたことの喜びよりも、彼らの笑顔を見て嬉しくなる気持ちの方が大きい。「おめでとう!」と言い合い、ハグを交わし、一緒に写真を撮る。

みんなに別れを告げ、大聖堂前の広場から歩いてすぐの場所にある巡礼事務所へ巡礼証明書を受け取りに行く。入口にあるQRコードを読み取って必要事項を入力する。入力し終えて入口の職員に提示すると整理券を発行してくれる。整理番号は154番。

1階に証明書を発行するカウンターがあり、その入り口で自分の番号が呼び出されるのを待つ。ほとんど待ち時間もなく、すぐに自分の番号が呼ばれる。必要事項は事前に入力済みのため、カウンターでは職員の女性から「日本から来たの?」などと聞かれたぐらいだった。あとは無料で発行してもらえる巡礼証明書とは別に、3ユーロで巡礼区間距離証明書も発行できるがどうするか聞かれたので、もちろんサン・ジャンから歩いた証として発行をお願いした。職員の女性がニッコリ笑って「おめでとう」と言いながら2枚の証明書を渡してくれた。巡礼区間距離証明書の代金は同じフロアにある売店で払う。証明書をしまう2ユーロの筒も購入。計5ユーロ。

巡礼書を丸めて筒にしまい、トイレで用を済ませてから巡礼事務所を出る。来た道を戻っていると、アニータとウリーが向こうからやってきた。するとアニータに両肩をつかまれて「あなたの儀式は終わったのね。よくやったわ!」と言われ、思わず泣きそうになったが頑張ってこらえた。実はこの巡礼記には書いていないが、自分がスペイン巡礼をしているのには一つ理由がある。それは日本にいる家族や友人知人の誰にも話したことがなく、今回の巡礼で出会った他の巡礼者の人達に初めて打ち明けたことだ。アニータに話した時も、その理由のために巡礼していることは“儀式のようなもの”だと説明していて、彼女はそれを覚えていてくれたのだ。彼らはこれから証明書をもらいに行くところだったので、「また後で!」と言って別れる。

大聖堂で行われる正午のミサに参加するため、事前に予約していたアルベルゲにバックパックを置きに行く。大聖堂には大きなバックパックを持ち込むことができないため、アルベルゲや巡礼事務所の有料ロッカーなどに預けておく必要がある。

11時半前に大聖堂へ入ると、中はミサを待つ人で一杯だ。巡礼者もいるが観光客が多い印象だ。

祭壇はとても豪華で人もこれだけ多いのに、大聖堂の中には不思議と静謐な空気が流れる。

アニータから、ウリーがご飯食べに行きたいって言ってるんだけどどこにいる?と連絡があったので「行きたいけどミサに出るために大聖堂の中にいるんだ」と返す。彼らは別のミサに参加するという。

正午になり、ミサが始まる。若い男女の聖歌隊もいて人数も規模も今まで見てきたミサの中で一番大きい。正午のミサでは、今日到着した巡礼者の出発地と出身国が読み上げられる。サン・ジャンから出発した日本の巡礼者、とスペイン語で言っているのが聞き取れた。席が埋まっていたため立って見ていたのだが、途中から疲労と空腹と眠気で立ちくらみがしてしまい、その場でしばらく座り込んでしまった。朝食も食べていなかったので完全なエネルギー切れだ。ミサは1時間ほどで終了。運が良ければ見られるというミサ中のボタフメイロ(大香炉)は今日は見られなかった。

教会を出ると、街は多くの人で賑わっている。サンティアゴの街並みは都会らしい都会ではないが、今まで通ってきたどの都会よりも人が多い。

今の最優先事項はランチだ。小野美由紀さんの本で、巡礼路で味わった中で一番おいしかったと書いてあったガリシア風スープ(Caldo Gallego)を出すガリシア料理店に行ってみることにする。店は満席で少し待たなければいけなかったが、もう歩く力も残っていなかったので外の席で待つ。

しばらくすると店内の地下のフロアへ案内される。メヌーにして一皿目はガリシア風スープ、二皿目はコルドンブルー(Escalope con Queso)、デザートに自家製バニラクリームを注文。デザート、パン、水付きで13ユーロ。確かにガリシア風スープはとてもおいしい。コルドンブルーも好みの味で期待以上だった。しかも二皿ともボリューム満点で、朝から何も食べていなかった胃袋も大満足だ。さらにこの量と味で13ユーロは安すぎる。サンティアゴにはこんな店がゴロゴロしているのだろうか。

会計を済ませて店を出る。さて、明日はどうしようか、この先のフィステーラまで歩くかどうかはサンティアゴに着いてから決めるつもりだったが、もう歩く気は満々だ。その場合、当初の計画では明日から再び歩き始める予定だったが、サンティアゴにもう一泊したい気もする。とりあえずアルベルゲにチェックインしてから落ち着いて考えよう。もう一度大聖堂前の広場へ行くと、15時頃だったが巡礼者の数は依然として多く、特別な高揚感に包まれていた。

アルベルゲにチェックイン。宿泊代は23ユーロ。ここのアルベルゲは大聖堂からも近く立地が良いこともあり、アルベルゲの料金としては最高値圏だ。だが、いざ泊まってみると、すぐにバックパックを置きに来ることができる点や、サンティアゴでは街へ出かけることも多いので移動時間を節約できるメリットが大きい点を考えると、数ユーロ高くても中心部に近いアルベルゲにした方がトータルの満足度は高そうだ。ちなみに、ここのホスピタレイラの女性は旦那さんが日本人なのだそう。シャワーを済ませ、ここのアルベルゲは洗濯物を干す場所がなかったのでホスピタレイラに洗濯機と乾燥機の料金を尋ねると、洗濯・乾燥合わせて6ユーロとのこと。洗濯機と乾燥機を利用する場合は各4ユーロ、計8ユーロというアルベルゲが多いが、それと比べればリーズナブルだ。しかも洗濯機・乾燥機の操作は自分でしなければならないアルベルゲが多いが、ここはホスピタレイラが代わりにやってくれるそうだ。今日はサンティアゴに着いた自分へのご褒美として、2日分の洗濯物はホスピタレイラに洗濯をお願いすることにした。

しばらく昼寝をしてから18時頃に街へ出る。日本の友の会のガイドブックに他のものとは「全く違うテイスト」と書いてあり気になったサン・ペラジョ(San Pelayo)修道院のタルタ・デ・サンティアゴを買いに行く。場所はとても分かりづらいが、ここが入り口だ。

ところが、お目当てのタルタ・デ・サンティアゴは残念ながら売り切れだった。明日の13時以降に来れば買えるようだ。

この時間も街には人こそ多いものの、先ほどまでと比べると少し落ち着いた雰囲気になっている。

日差しが強く暑いので、今日もジェラートを食べに行くことにする。お目当てのジェラート屋は行列が出来ていたが、時間はあるので並んで待つ。チョコレート、ピスタチオ、ヨーグルトのジェラートを注文。4.50ユーロ。

食べ終わって通りを歩いていると道端でリーに遭遇した。彼は2日前にサンティアゴに着いたそうだ。途中まで一緒に歩いていたはずだが、いつの間に先へ行っていたのだろう。彼は明日フィステーラにバスで行き、それからポルトガルのポルトやリスボンなどを巡って6月頭に帰国する予定だそうだ。彼の連絡先を教えてもらい、「韓国に来る時は連絡してね」と言ってくれた。二人で写真を撮り、ハグをして別れる。

アニータとウリーがディナーに誘ってくれたので20時過ぎに合流する。指定された店はビーガン料理屋だ。今日は重めのランチを食べたのでちょうどいい。

店に着いた時はすでに二人が注文した後だったので料理名は分からないが、餃子や団子のような料理、ジャンバラヤ、カレーをシェアしながら食べる。アニータとウリーもビーガンという訳ではなく、ボカディージョやトルティージャなどの食生活が続いていたため、ビーガン料理でリフレッシュしたかったそうだ。食事をしながら、以前より彼らと自然に英語で話せている自分に気づく。やっぱりスムーズに会話できるとより楽しい。ウリーが僕達が招待したから、と言ってまとめて会計を支払ってくれた。

何かデザートを食べたいね、という話になり、先ほどのジェラート屋に再度行く。実は二人もディナーの前に同じジェラート屋に行っていて気に入ったのだそうだ。今度はジェラートではなくケーキを3つ買い、分け合いっこしながら食べ歩きをした。ここの会計もウリーが支払ってくれた。なぜそんなに気前がいいのか分からなかったが、素直に彼の好意を受け取る。再び大聖堂の前に行って三人で写真を撮り、おやすみの挨拶をして別れる。

アニータ、ウリーと最後にもう一度ゆっくり時間を過ごせてよかった。彼らは普段とてもスマートでユーモアもあるが、巡礼中は度々なんでそんなことするの?と不思議に思うような行動を取ったり、ナイーブな一面を見せたりしたこともあった。そんな一見完璧に見えるが、実は不完全な彼らのことが好きだ。それは学歴や資格といったステータスは一見立派だが、実際は問題だらけな自分と相通ずるものを感じるからだろう。そして彼らもそんな自分のことを理解してくれているように感じるからこそ、一緒にいて安心できるのだろう。彼らは間違いなく今回のスペイン巡礼で出来た一番の親友だ。

21時半頃にアルベルゲへ戻る。洗濯から戻ってきた衣類を畳んだり荷物の整理をしてから23時に就寝。

歩いた距離
今日19.0km 合計780.4km 残り0km

P.S. 文中でもさらっと書きましたが、私のスペイン巡礼はもう少し続きます。それに伴い、当初は『私のスペイン800km巡礼記 in 2023春』としていたタイトルを、この記事を投稿するタイミングで『私のスペイン900km巡礼記 in 2023春』へ変更しました。それではもうしばらくの間お付き合いいただければ幸いです。

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