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私のスペイン900km巡礼記 in 2023春 #44 【42日目】第2のゴール、フィステーラへ到着〜スペイン最西端の岬で夕陽を見る

こんにちは、ナガイです。今日はセーからフィステーラ(Fisterra)へ向かいます。
前回の記事はこちら。

天気予報(フィステーラ) 強風 最高気温16℃ 最低気温13℃

6時起床。疲れているはずだが、起きる時間はいつもと同じくらいだ。足に疲労が残っているのを感じる。やはり40kmの歩行は翌日にダメージが残るようだ。とはいえ、今日は残り16km余りなので急ぐ必要はない。スペイン巡礼で初めて朝シャンをした。なんとなく今日のフィステーラ到着前に身を清めておきたいと思ったからだ。

7時半に出発。朝の町は静かだ。今朝も少し肌寒い。今日はそれほど距離も歩かないので長袖のポロシャツに薄手のジャケットという服装にした。

8時前にコルクビオン(Corcubión)の町へ入る。建物の屋根の色が統一されており、絵に描いたような町並みだ。

町中の坂を上って教会の前を通過し、分岐点があるので左を進んでみると山道に入る。

起きた時には気づかなかったが、上半身にも僅かな筋肉痛があるようだ。今日は上り坂を一歩一歩踏み締めるようにしてゆっくりと上がる。

道が下り坂に入ると、また向こうに海が見えてくる。一ヶ月以上山道を歩いてきたからか、海を見ると新鮮な感動を覚える。

9時前にエストルデ(Estorde)の町を通過。海がすぐ近くにあるので歩いていると波音が聞こえる。

この先がフィステーラであることを示す案内板を通過する。ちょうど残り10kmの距離だ。

そして残り10kmを切った。どこかで朝食を取りたかったが、この時間はどの飲食店も開いていなかった。

仕方なく海の見えるベンチで常備していたミックスナッツを食べたが、結局これが一番贅沢な朝食場所ではないかと思った。ふと顔を上げると、足早にこちらへ近づいて来る巨大な黒い犬が視界に飛び込んできた。思わず「うおっ」と声を出して怯んだが、犬はスピードを緩めることなく目の前を通り過ぎて歩き去っていった。首輪をしていたので野良犬ではないようだったが、後から飼い主がやってくる様子はなかった。

9時半頃に再び出発。巡礼路に戻って歩いていると、通りがかった家の前に先ほどの巨大な黒い犬がいた。この家の飼い犬なのかもしれない。先ほどは一匹で歩き回っていたようだ。

町を抜けて山道に入る。同じ道を地元のおじいさん達も散歩していたが、自分がこうして巡礼できているのは、地元の人達の日常に巡礼者が足を踏み入れるのを受け入れてもらっているからだ。自分にとっては非日常でも彼らにとっては日常であり、常にそのことを念頭に置いて謙虚に振る舞わなければいけないと思う。

10時頃、徐々に木々が切れてきて向こう側に海が見えてくる。

目の前には今までで一番まっすぐな水平線の見える海が広がり、右手にはフィステーラの町と岬が見える。胸に熱いものが込み上げてくる。

それから急な下り坂を降りると、砂浜が見えてきた。海の色がきれいだ。思わず「うわ、すげー」と声を上げる。

さらに少し歩くと山道が終わり、海と浜辺が目の前に見える。浜辺には犬を散歩させている人達や、巡礼路を外れて波打ち際を歩いている巡礼者もいる。自分は靴の中に砂が入るのが嫌だったので浜辺には行かず、そのまま石畳みの巡礼路を進んだ。

残り5kmを切った。フィステーラの町へ入る。サンティアゴの時は一刻も早く着きたい気持ちで必死だったが、今はより穏やかな気持ちで噛み締めるように一歩一歩を歩いている。とはいえ今はバルで一休みするよりは先にゴールへ向かいたいという気持ちなのはサンティアゴの時と同じだ。

今日泊まるアルベルゲにバックパックを置いてから岬へ行こうかとも考えたが、サン・ジャンから今までの道のりを全てバックパックを背負って歩いてきたのだから、どうせなら最後まで背負って歩くことにした。これもそんなルールや決まりがある訳ではなく、自分自身の挑戦として、自分がしたいからそうするだけだ。

サンティアゴでアニータからもらったハガキに書いてあったメッセージにはこんな一文があった。
“I thought your ritual was over but I think you have a little ritual left for yourself(君の儀式は終わったと思うけど、君自身のための儀式がもう少し残っていると思う)”
アニータのメッセージを読んでから、このサンティアゴ以降の巡礼は自分自身のための儀式のつもりで歩いている。それは言い換えれば、サンティアゴまでは過去のための巡礼、サンティアゴ以降は未来のための巡礼ともいえるかもしれない。そんな自分自身のための儀式も終わろうとしている。

町を抜け、再び海がよく見える道に入る。どうやらフィステーラのゴールはサンティアゴのように町中にある訳ではなく、さらに岬の方へ進んだところにあるようだ。

岬までの道は急ではないがじりじりと上がる坂が延々と続く。これが地味に辛い。

岬から戻って来る人達とすれ違いざまに「オラ!」と挨拶をするが、単なる観光客と思われる人達の多くには無視される一方で、巡礼者と思われる人達は全員が「オラ!」と挨拶を返してくれる。

そして午前11時44分、0.000kmを示す道標に到着。フィステーラ巡礼のゴールだ。サンティアゴにはこうした公式のゼロkmの道標はなかったので、分かりやすいゴールがあるのもまた達成感を感じられていいものだ。

ゼロkmの道標からさらに少し歩いたところに岬の先端がある。クレデンシャルにスタンプを押してもらう。0.50ユーロを寄付。岬の先端まで来ると見渡す限りの水平線が広がっている。

お腹も空いたが、それよりトイレに行きたかったので岬にあるバルへ行く。こういう辺鄙な場所にある観光地の店は往々にして値段設定が高めだが、やはり飲み物は2.50ユーロするそうなので食べ物だけ買ってトイレを借りることにする。見た目はボカディージョだがMontaditoという名前のチョリソーとチーズの入ったものを注文。4.50ユーロ。味は個人的には今ひとつだったが、テラスからの見晴らしは最高だった。

12時半過ぎに岬を出発してフィステーラへ戻る。帰り道は緩やかな下り坂で、行きと比べるとずっと楽だった。

フィステーラの町へ戻り、アルベルゲにチェックインする前にアイスを食べることにする。青リンゴとジャンドゥーヤのアイスを注文。3.60ユーロ。店の主人が気さくな人で楽しく会話をし、「君はスペイン語が上手だね」と褒めてくれたので嬉しかった。店主は食べ終わって店を離れる時も笑顔で「チャオ!アミーゴ!」と言って見送ってくれた。

アルベルゲへ向かう途中でレオナルドと遭遇する。サンティアゴ以来の再会だ。レオナルドに「海で泳いだ?」と聞かれる。彼はすでに海でひと泳ぎしたそうだ。後でご飯を食べようと約束して別れる。レオナルドと別れてからすぐにデービッドと、彼と一緒にいたドイツ人の女性と会ったので少し話す。彼らはレオナルドから直接聞いたのか、彼が昨日60km歩いたことを知っていて驚きを隠せない様子だった。なぜだか自分まで誇らしい気持ちになる。

アルベルゲに着くと、チェックインが始まる14時まで少し時間があったので入り口近くの椅子に座って待つ。間もなくして先ほどデービッドと一緒にいたドイツ人の女性がやってきた。同じアルベルゲを予約していたようで、自分の向かいの席に座った彼女としばらく話をする。彼女の名前はカレン。彼女は明日サンティアゴ以降の巡礼のもう一つのゴールであるムシア(Muxía)へタクシーで行く予定とのことで、歩いて巡礼するのは今日が最後だったそうだ。
14時になったのでアルベルゲへチェックインする。きれいで設備も整ったアルベルゲだ。

シャワーと洗濯を済ませると、ミアからメッセージが来ていた。彼女は今日フィステーラにいるらしく、自分のことを見かけたそうだ。恐らく岬へ向けて歩いていた時だろう。今日の夜は何か予定ある?と聞かれたのでレオナルドとディナーを食べる予定だと伝えると、ミアはリンジー達と一緒にビーチへ夕日を見に行くそうで、興味があれば一緒に見ようというお誘いだった。後でレオナルドに聞いてみよう。

昼寝をしてから17時過ぎにフィステーラの巡礼証明書をもらうために町へ出る。通りを歩いていると向こうからリンジーがやってきた。確か会うのはレオン以来だ。再会のハグをする。すぐ後にミアもやってくる。彼女達とはもう会えないだろうと思っていたので嬉しい。リンジーに夕日が見える西側のビーチへの行き方を教えてもらう。リンジーのスマホで3人のセルフィーを撮って彼女達と別れる。

巡礼証明書を発行してもらえるというインフォメーションセンターへ行くと閉まっていたが、張り紙を見るとスーパーの横にある公営アルベルゲで巡礼証明書を発行していると書いてある。

公営アルベルゲは目立たないので見落としそうになるが、建物の中に入ると一階に窓口があり、そこで巡礼証明書を発行してもらうことができた。やはり紙一枚でもこうして形になると嬉しい。サンティアゴでもらった証明書と一緒に丸めて筒にしまう。

ついでに横のスーパーでクッキーと水を購入。2.89ユーロ。

18時頃に一旦アルベルゲへ戻り、明日以降のプランを考える。帰国日の前3日間はマドリードのホテルを予約しているが、それを手数料なしでキャンセルできるのが今日までだ。つまり、帰国までの予定を今日中に決める必要がある。Renfe(スペインの国鉄)のサイトを見ると、サンティアゴからマドリードへの列車は明日と明々後日ならまだ席があるが、明後日は全て満席のようだ。理想のプランは明日フィステーラからムシアまで歩き、明後日ムシアからサンティアゴへバスで行き、サンティアゴのお気に入りのレストランでもう一度ガリシア風スープとコルドンブルーを食べてから、列車でマドリードへ移動して夜にサッカーの試合を観戦する、とうものだったが、それは難しそうだ。サンティアゴの空港からマドリードへの飛行機も深夜の時間か300ユーロ台といった値段のチケットしかない。こうなる可能性があることを承知でギリギリまで粘ったので仕方ないが、そしたら明日はムシアまで歩き、明後日はムシアからマドリードまでバスで移動しよう。そう決めると後の行動は早く、すぐにムシア・サンティアゴ間とサンティアゴ・マドリード間のバスの予約を済ませた。午前7時半ムシア発、9時15分サンティアゴ着のバスは6.65ユーロ。10時45分サンティアゴ発、20時半マドリード着のバスは28.80ユーロと、移動で一日潰れてしまうが費用は最も安く済む。

18時半頃にレオナルドへ19時からディナーを食べて西側のビーチに夕陽を見に行かないかと連絡するが、彼がメッセージを見ていなかったようで19時過ぎに返信があり、彼は岬から夕日を見たいという。自分も岬からの夕日を見てみたいと思っていたのと、今夜はレオナルドと行動を共にすると決めていたので、残念だがリンジーやミアと夕日を見るのは諦める。レオナルドがディナーは夕日を見た後の方がいいと言うので、先に岬へ行くことになった。
20時にレオナルドが泊まっているアルベルゲで待ち合わせをする。レオナルドがもう一人の女性と待ち合わせているというので、また別のアルベルゲへ行く。アルベルゲから出てきたのは初めて会う女性だ。彼女はオランダから来たアナマリ。彼女は過去に一度フランス人の道を歩いたことがあり、今回はポルトガルのリスボンを出発してサンティアゴを目指す“ポルトガル人の道”を歩いてきたそうだ。レオナルドとはサンティアゴ以降に知り合ったそうで、3人とシカで岬へ行くことになった。

午前中に岬へ行った時と違い、今回はバックパックを背負っていないので楽に道を上れる。アナマリと明日以降の予定やカミーノに来る前にオランダへ友人に会いに行った時のことなどについて話す。友達の友達とは必ずしも気が合うとは限らないが、彼女とはすぐに打ち解けることができた。

21時頃に岬へ着くと、すでにいい感じに日が傾いている。同じように岬へ夕日を見に来た人も多い。

シカは昨日60km歩いたからか、少しお疲れの様子だった。彼にとってもこの巡礼はとてもチャレンジングなものだったに違いない。

岬の先端まで行って夕日を見ることにした。なんて美しい光景だろう。もしフィステーラに2泊するのであれば1日はビーチから夕日を見るのもいいと思うが、1泊しかしない場合は岬からの夕日を見に来るべきだろう。

思ったより気温が下がって寒い。ダウンジャケットを持ってくるべきだった。レオナルドとアナマリはもうしばらく残りたいようだったので、日が沈むのを見届けてから一人で先に町へ戻ることにした。

22時頃に岬を出発。しばらくしてレオナルドからメッセージが来る。どうやらシカがとても疲れているのでディナーに行くのが難しそうだという。仕方がない。それなら一人でどこかで食べて帰ろう。

22時半頃に町へ戻りレストランを探すが、思いのほか開いているレストランが少ない。23時前にようやく開いているレストランを見つけたので入る。メニューを見るとメヌーが2つあり、12ユーロの“本日のメヌー”と35ユーロのスペシャルメヌーだ。スペシャルメヌーは1皿目が海鮮3種、2皿目は魚かタコのどちらかを選べるそうで、値が張るがとても気になる。ここはフィステーラ到着のお祝いということで思い切ってスペシャルメヌーを注文した。パンと水込みで35ユーロ。

1皿目の3種類の海鮮は、1皿目と言っても1種類につき1皿のボリュームで出てくる。3種類のうち2種類が貝(Longueiron a la Plancha / Grilled Razor、Percebes / Barnacles)、1種類がカニ(Centollo / Spider-Crab)だ。

Longueironは目玉が飛び出るほどおいしく、思わず店員の女性に「とてもおいしいです」と伝えると彼女も嬉しそうだった。Percebesはフジツボのようなものらしく、店員の男性に食べ方を教えてもらったが、とにかく食べ辛かった。味はまずまず。Centolloは日本で食べるカニと遜色ないおいしさだった。これだけで量も味も満足なのだが、これからメインが来る。Sargoという魚が2尾と大量のポテトだ。Sargoはごく普通の淡白な白身魚という感じだ。ポテトはじゃがバターのような味付けで意外とおいしかったが、なにせボリュームが多い。

今日は朝も昼も食事らしい食事を取っていなかったので、3食を一気にこのディナーで賄ったような感じだ。この店は一応24時までの営業らしいが、23時頃にアジア人が一人でフラッとやってきたら今日は閉店だと言って追い返されてもおかしくないところを、接客も料理も手を抜かないで対応してくれたのが嬉しかった。

24時過ぎにアルベルゲへ戻り、1時に就寝。

歩いた距離
今日16.7km 合計869.9km

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