シティポップみたいな街に君と出かける
「こっちがシティポップ1丁目で、こっちがシティポップ2丁目だよ」
僕は運転席から左右を指でさして君に教えた。
今夜の首都高はAメロもBメロも空いてて走りやすい。乗ってるのは税金の高い空飛ぶ車だけど。
「ダンスしてるみたいな街ね」
助手席の君の横顔を街明かりが幻惑的に通り過ぎてく。
少し開けた窓。
夜風になびく君の髪、イケてるループアニメーションに見える。
「この街は条例により週に3回は恋愛しないとダメなんだ」
「ウソね」
「ウソさ」
オフィスビル群が残業を終えて週末のホッとした明かりになる。
もはや街にシティポップを流す必要はなかった。
足りなければお好みで夜空を足せばいい。
快調に車を飛ばす。恋愛で発電して電池に貯めてる。真っ赤なボディ。
離陸しないように走るのって意外とテクいる。
「素敵な服だね」
「ありがと、でも不思議なの。シティポップ通りのショウウィンドーで見惚れてたらもうそれを着てたの」
「シティポップは気前がいいのさ、特に君にはね」
「ふふ」
中景のあたりに派手めなシティポップタワーがにょっきり出てくる。アットランダムに抜き取った都市美がその脇を固める。
大人たちのよく言う“夢のない時代”なんてのは、この夜に寝坊したやつの言い訳さ。
そうそう、空飛ぶ車で空を飛ぶ時代は終わったんだ。
空飛ぶ車で首都高を走るのがいちばん無駄にかっこいい。
それに夜間の空の通行料は割増だしね。
でもまさか、空飛ぶ車が全てマニュアル車で発売されるとは思わなかった。
「久しぶりにヒール履いたの」
「僕らが夜空をつかむ確率が少し上がったかもね」
「そうやっていつもあなたは確率だけを上げていくわね、言葉はくれないくせに」
「いつも歌詞カードの中に置き忘れちまうのさ」
「ふふ、ドジね」
「飛ぶかい?」
「ううん、このままがいいわ。だって、夢から覚めたらやだもん」
ブライダルカーみたいに後ろにたくさんシティポップをぶら下げて、シティポップを鳴らしながら走る。
南よりの風が吹く。
気の抜けたサイダー。
カラフルなカーテン。
青い案内標識が近づいて遠ざかる。
どっちに曲がっても君との未来だ。
シティポップ中央フリーウェイへとハンドルを切る。
「最高よ」
「だろ」
もしも夢から覚めちまったら
シティポップを聴けばいい
たとえ金曜の夜が終わったとしても
次の金曜の夜をプレーヤーにセットして回すだけさ
終
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