「春よ、来い。」
松任谷由実の代表曲「春よ、来い」の一節である。
これを読んでいる皆さんは、この言葉を肌身で実感したことはあるだろうか。雪国ではない地域にお住まいの方にとっては、「冬」と「春」の境目というのは些か曖昧なものかもしれない。
しかしここ札幌、こと陸上シーンにおいてはこの言葉が身に染みて感じられるのである。
そこで今回は
札幌における「陸上シーズン」
について、東京生まれ東京育ちの私が2年間で感じたことをお伝えする。
紹介が遅れたが、私のプロフィールは以下の通りである。
1,来歴
札幌での陸上生活について紹介する前に、まずは私の簡単な来歴について触れることとする。
私は小・中学校の9年間サッカーチームに所属していた。リフティングやドリブルといった技術面では周りに勝てる要素がなかった私だが、唯一誰にも負けない部分があった。
それが「がむしゃらさ」と「体力」である。
サッカー部でのランニングトレーニングでは常に一位を張っていた私が高校入学と同時に陸上部に入部したのは、いわば当然だったのかもしれない(中学校には陸上部がなかった)。
高校では1500mや5000mを中心に取り組み、4×400mリレーでは都大会も経験した。
生徒主体でメニュー作りを行うなど非常に自由な部活だったが、練習から同期や後輩とバチバチやりあい、良い雰囲気の集団で練習できたことは、今も自分にとっての大きな財産になっている。
2,本州のシーズン・札幌のシーズン
そんな私にとって、本州における陸上のシーズンはいわば「一年」を通じた境目のない連続的なものであったといえる。
これは中長距離という競技の特性も含んでいるが、本州においては屋外での練習が一年中できるため、トラックレースが終わった冬の期間(12月から2月)も駅伝やマラソンなどの大会が開催されており、シーズンの区切りは曖昧である。
一方、札幌でのシーズンの区切りはこうだ。札幌ではトラックレースが10月に終了し、トラックシーズンが再開するのは4月末までかかる。
また11月末ごろから3月半ばごろまでは積雪の影響で、スピード練習は室内施設のみを使って行われる。
ではジョグは?
その答えは「雪上」だ。
雪の上は走れるのである(断定)。
コンクリートと違い、やわらかい雪上は足への負担が少ない(捻挫や転倒には注意)。そのため、冬季練習期間でトータルの走行距離を増やし、シーズンに向けて鍛錬を行うことが可能になる。
本州とは異なる練習環境は一見デメリットのように思えるが、シーズンと冬季練習という境目が「雪」という目に見える形で生まれることで、鍛錬に集中して取り組むことができるというメリットもあるのだ。
とはいえ、冬季練習期間も中盤を越えると、徐々に目標を見失っていくこともある。雪の上でのジョグは、足には優しいが寒くて集中力が続かないことも多い。家を出るのさえ億劫になる。
そうすると、次第に太陽とトラックが恋しくなってくる。
そして、まだまだ先の競技会や対校戦に想いを馳せ、その舞台で活躍する自分の姿を思い描いて練習に励むのである。
そう、これこそが冒頭で述べた「春よ、来い」という、冬場の陸上部員による切なる願いなのだ。
3,シーズンインを迎えて
そんなこんなで、今年も札幌に春が訪れた。
今年は4月27日に無事にシーズン初戦を迎え、いよいよ春が来たのだと実感している。
私にとって今年の冬は、長くつらいものであった。
ジョグやウエイトトレーニングなど自分の気持ちに身体が追い付かないことが多く、陸上と向き合うのもつらくなることがあった。
しかしシーズンを迎えた今、冬季練習期間に自分自身と向き合い「なぜ陸上を続けているのか」、「この先どのように陸上生活を設計していくか」を自問自答したことは、決して無駄な時間ではなかったと思う。
本州の連続的なシーズンの流れでは、こうした「立ち止まって考える」時間をとることは難しかっただろう。
私は追い込まれて初めて行動するタイプだという自覚がある。北海道の冬はそんな私に、陸上におけるセルフマネジメントの大切さを身をもって実感させてくれた。
その意味で、私は北海道大学の陸上競技部で中長距離をやっていてよかったと思っている。
札幌の冬は長く、冷たく、厳しい。
それは陸上において記録が思うように伸びないとき、いわゆる「スランプ」の時に近いものがあると私は感じる。
永遠にも感じられるような長い冬の時間。「迷い立ち止まる時」も多い。
しかし、それでも夢を見続けた先で、「まだ見ぬ春」は待っている。
(冒頭の写真は北海道猿払村にて筆者撮影。朝陽が綺麗でした。)
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