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神々が降りる島〜ラムネ炭酸寝顔〈YouTube追加版〉|#たらはかに様

たらはかに様のnoteを拝読。

↓ ↓ ↓


カタカナ苦手だし。簡単なお題が欲しいようぅ。助けてたらえもーんという皆様にはこちらの裏お題を。

【ラムネ炭酸寝顔】

たらはかに様note


ショートショートではないのですが、
#ラムネ炭酸寝顔というお題にインスパイアされて、短篇小説を編んでみました。

 

神々が降りる島〜ラムネ炭酸寝顔


波影はえいがきらきらと光をまき散らして、透明度の高いこの海は、ブルーキュラソーのカクテルさながらだった。


透羽子とうこは、ウインドサーフィンのボードの上に横たわり、柔らかな太陽を浴びて、まぶたを閉じた。


永遠に繰り返す波の音。遠浅の海の上に広がる大空には、白く輝くかすかな雲。


―――もう、秋が、始まりかけていた。


透羽子とうこちゃん」

ややうとうとし始めたとき、少し離れた波間から、セール(帆)とブームエンドを操って、太田がゆっくりと滑るように透羽子に近づき声をかけた。


太田は、数年前からウインドサーフィンを教えてくれているインストラクターだ。

―――


最初は友だちと旅行で来て、アクティビティの一環でウインドサーフィンに挑戦した。そしてこの島の海と風の心地よさに、透羽子だけすっかりはまってしまった。


ひとりで毎年シーズンになると、夜行バスとフェリーに乗って島へ渡って来る。お陰で、少しずつ上達し、太田につきっきりで教えてもらわなくてもウインドサーフィンを楽しめるようになってきた。


―――


「ちょっと休憩しようか。あの岩場へ着けよう」

「はい」

透羽子はボードの上に立ち、マストを中心にしながら綱で引き上げ、右手にブームを持って風をとらえた。


・・・1,2,3,・・。手順どおり。


何度も何度も、太田から丁寧に教えてもらった、大きな蝉のはねのようなセールの扱い方だ。


ーーー


黒くごつごつした岩場に着いた。

そこは扇型に開かれた渚の端にあって、透羽子が一度も踏み入れていなかった場所だった。二人ともボードを流されない場所に置くと、太田が岩場の奥までうつむきながらあちこち歩いて、何かを拾って戻ってきた。

「透羽子ちゃん、これ・・・」

そう言って、拾ってきたものを石の上にのせ、手近な別の石で打ち付けた。
中身を手のひらにとんとん、と出し、

「美味しいんだよ。食べてごらん」

手を差し出した太田の笑顔は、日焼けして歯だけ真っ白だった。太陽を背にして、後光で輝いているように見えた。


それは割られた海胆うにで、棘の付いた殻から、オレンジ色のとろけた中身が手に零れていた。


穏やかな声に透羽子も笑顔を向けた。そして、太田の手のひらの海胆を、何気なく唇を寄せながら吸い取った。

(あ・・・)


これは、余りにも無防備だ、と透羽子は気がついた。如何いかに太田が、従兄弟のように近しい存在であっても・・・。


「ね、天然物は違うよね?・・・でも、こういうことは内緒だよ」


透羽子の戸惑いを他所よそに、太田は飽くまでも屈託ない笑顔を変えなかった。


(やっぱり、良い人だな・・・)


透羽子は、素朴な離島で育った彼をしみじみと見直し、恥ずかしさを隠すために、午後の傾きかけた日が照らす海へ視線を移した。





この島へ来て、驚いたことは幾つもある。


砂浜から遠く離れたとき、ボードから海に落ちて(ライフジャケットで浮くのだが)、足がつかず水底を覗き込んだ。まだ遠浅が続いているのかと思ったら、それは透明度が高いから、深くてもそう見えないのが分かった。


マリンスポーツの事務所にいる島の人に、海の綺麗さに感動したことを話すと、

「此処より、上の離島はもっと海が綺麗で透けてるよ」と言われたのだった。





また夜、ごはんに連れて行ってもらったとき、地元の居酒屋で「いるか」が食材として出てきた。


「グラン・ブルー」をレンタルで観ていた透羽子はかなりひるんだ。


その様子に気付いたのか、カウンターの中からマスターが説明した。


「そのいるかはね、沖から浜辺へ来て打ち上げられたんだよ。

たまに、・・・年に何回か、何故かそういう向こう見ずのいるかが来るんだ。沖へ戻らないのさ。

そういうときは、こうやってお店に出すんだよ」と。


当時は、何となくその説明に納得した気分になって食べた。鶏肉のような味だった。



今となれば分かる・・・いるかを地元の店が引き取って皆で食すのは、ひとつの「おとむらい」の形なのだと。
その島は、自然と人間の距離が近いのだった。





シルバーウイークが残り少なになり、
そろそろ帰ろうと思っていた。ツアーではないので、日程は休暇中なら自由だった。


ウエットスーツを着れば、秋風が吹いても寒さは感じない。けれど、波が次第に高くなり、ボードに立つのが難しくなってきたのが、帰る要因のひとつだった。


太田が、着替えてきた透羽子に声をかけた。


「透羽子ちゃん、このあと少し空いてる?」


ごはんのお誘いかな、と思いながら答えた、

「はい、大丈夫です」



車に乗せてもらい、着いたところは島の最西端だった。駐車場から道を上がり下りして、断崖絶壁に建っている白亜の灯台までたどり着いた。


見晴かす大海原、とはこういうことかと思い、言葉を失った。


「これが・・・東シナ海だよ。此処の崖は、東シナ海の荒波が削ったんだ」


太田は透羽子の顔を見ずに、海と空の境目あたりを目を凝らして見ていた。
何故か波の音は聞こえず、風が草木をざわめかせる音だけがあった。


二人で、灯台の周りをぐるりと歩いた。透羽子はこのまま、ずっとこの島に居たいと思った。


(・・・まだまだ、
知らないことがあり過ぎるわ・・・)


―――


ほとんど何も喋らなかったが、太田が先に立って道を引き返しながら、ふと振り返って言った。


「灯台を見るための展望所、というのがあってさ」


透羽子は、坂を上がりつつ頷いた。


「そこでは、群島も見えるんだ・・・」




展望所に着いた。透羽子が息を整えているうちに、釣瓶落しに黄昏どきを迎えた。


黄金色の、途轍とてつもなく大きな波の鏡面・・・


神々の恵みが光となって、うねりながら照り映えていた。


太田の言う群島も、先刻訪れた灯台やそこに至るまでの崖の稜線も、黒ぐろとしたシルエットになっていた。


先刻眺めた大海原は、まだちっぽけなものだったと知った。


「太田さん・・・」

呼ばれて、太田が透羽子に向けた眼差しは、“慈しみ”に近いものかもしれなかった。


「今年も、この島のことを色々教えてもらって、嬉しいです・・。

また来ます」


(私を)待っていて下さい、とは続けて言えなかった。


自分の心が、島を愛しているのか、それとも太田を愛し始めたのか、まだ判然と輪郭が見えないのだった。



【fin】


▶Que Song

やわらかい月/山崎まさよし





🌹おまけ🌹

五島観光に。映画「悪名」のロケ地です。

▶大瀬崎灯台



大好きな五島列島 福江島を舞台に短篇を創作しました。

気が向いたら続篇を綴ってみます🥀



🌟Iam a little noter.🌟



 🤍


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