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満天の星、淡い海の瞳〜風街に連れてって|#短篇小説


この短篇小説はこちらのお話と繋がっております。
よろしければご高覧下さいませ。

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満天の星、淡い海の瞳




週末のよく晴れた日。


僕は、久し振りに君の家まで車を走らせ、迎えに行くことにした。


ふたりで出かけるには絶好の、台風一過の澄んだ空気の季節―――秋だった。


「・・・今日は、何処へ行きたい?」


助手席でシートベルトを斜めにかけようとしていた君が、落ち着いて前を向くタイミングを見計らって、僕は訊いた。


10秒ほど考えたあと、



「―――天文科学館の、プラネタリウムが良いわ」と君が答えた。



「プラネタリウムか。何で?今は外も気持ちいいよ」



君は前を見ていた目と顔をこちらへ動かした。


「あのね。懐かしいの。幼稚園でも小学校でも、あの天文科学館へ遠足で行ったのよ。


途中の道の木陰で、どんぐりが沢山落ちてたわ。


・・・懐かしいの」


「そうか・・・じゃ、行こう」


僕はNAVIに行き先を打ち込み、ハンドルを切りつつ車を動かした。



その天文科学館は高台にあり、大きな樹々に囲まれた中に建っていた。ドーム型の屋根は少し灯台にも似ていた。白い壁が良い感じに古びており、周りの景色に合っていた。


「―――此処へ、よく来てたんだ」


「そうね。家族とも来たし。中に入ればよく分かると思うけど、この建物は子午線の上にあるの。何となく、ロマンがあるでしょう?」




平日で、ほぼ貸し切りの状態だった。ふたりの靴音が、建物の中でやたらと響いた。


君が言ったような施設の説明、宇宙についての科学的な展示、星座についての紹介。


様々眺めて歩みを進めるうち、不思議な感覚になった。―――もし、同級生の君と、園児や小学生に戻って此処へ遠足に来ていたら・・・。


僕たちは、今日のように、またふたりで時を過ごすことはあっただろうか。


「・・・後藤くん。そろそろ、プラネタリウムの時間だよ。行こう」


君は手を出そうとして、・・・そしてぎこちなくその手を上げて、ゆっくり招くように手のひらを振った。


(前は、こんなときは手を繋いでいたんだよな・・・)


僕は甘苦しい気持ちになりながら、折りたたみ椅子が並んだシアターのようなプラネタリウムの中に入った。




日暮れどきからのシチュエーションで、プラネタリウムのショーが始まった。


僕は、こういう天体ショーを観るのは初めてだった。半円の天空が広がり、その全体がグラデーションに赤く染まったあと、宵闇に包まれて深く蒼く色を落としてゆく。ショーは初めてなのに、昔グラウンドで遅くまで遊んでいた頃のような、懐かしい既視感があった。


次第に満天の星が見えてきたかと思うと、天の河が生じて、星と星では星座が紡がれてゆく。


暗がりのもと、ずっと穏やかなナレーションを聴きながら、注目する星に矢印のライトが示されているのを夢中で追った。そして、僕の中で、思いがけず感動が生まれていた。


(―――永遠って、こういうことなんだな。

こうやって、ずっと朝と夜が地球に繰り返されるんだ・・・)




ふと横で椅子にもたれながら座っている君を見ると、子どもみたいに口を少し開けて一心に星空の天井を観ていた。


しばらくその様子を観察していた僕に気付いて、君は恥ずかしそうに声を落として笑った。




プラネタリウムを出たあと、海が見えるカフェテラスでランチを食べた。


シーフードパスタをフォークにからめながら、


「今日は、遠足と重ならなくて、いてて良かったね」と君は言った。


「そうかな」


「そうよ。子どもたちが多いとかしましくて、ゆっくりプラネタリウムも観られなかったかも」


「そうだね・・・」


僕は先刻のショーの余韻がまだ完全に消えていなかった。君は僕の顔を見て、ふふ、と笑った。


「私、変な顔でショーを見てたでしょう?いつもプラネタリウムを観ると、あんな感じになっちゃうの」


「『子ども』みたいだったよ」


「うん・・・」


子ども、と僕が言った瞬間、君の目が不意に揺れた。手に持っていたフォークを置き、ジンジャーエールをストローで飲んだ。


そして、開いた窓の外の海を、横顔になって見つめ始めた。まるで、心を落ち着かせるかのように。


僕はその違和感に踏み込んでいいか分からず、黙ったままパスタを口に運んだ。


「あのね―――」


俯いて食べていた僕に、君は言った。


「実は、前に独りでプラネタリウムに来たの。子どもの頃の懐かしさに浸りたくて・・・


幸せだったからね。


そしたら、私くらいの人が夫婦で来てバギーを押してたの」


何の話だろう、と君の顔を見上げた。
君は目を合わせず、またパスタをフォークに巻いていた。


「変な話だけど・・・

もしあのままお付き合いしてたら、私も後藤くんと結婚してたのかな、って。


バギーを押してたのかな、なんて思っちゃって・・・莫迦だよね」


喉の奥にせり上がってくるものがあって、何も答えられなかった。今は「そのとき」じゃない、と僕は思った。



「そのとき」、じゃないんだ。


フォークに巻いたパスタを食べて、もの問いたげに僕を見た君の瞳は、淡い海のように綺麗だった。


僕は何故か、うん、とうなづくしか、今は方法がなかった。




【continue】




▶Que Song

夏色のおもいで/kiyoe yoshioka


きみをさらってゆく風になりたいな
きみをさらってゆく風になりたいよ

きみの眼を見てると
海を想い出すんだ
淡い青が溶けて
何故か悲しくなるんだ

夏はいつのまにか
翼をたたんだけれど
ぼくたちのこの愛
誰にもぬすめはしない

きみをさらってゆく風になりたいな
きみをさらってゆく風になりたいよ
きみの眼の向うに
青い海が見えるよ
すきとおった波が
そっと零れおちるんだ
涙ながすなんて
ねぇきみらしくないよ
ぼくたちのこの愛
誰にも邪魔させないさ

「夏色のおもいで」






🌹おまけ🌹

神戸観光に。この舞台です。

🪐明石天文科学館🪐


明石の魚の棚で本場の玉子焼を食べるも良し、神戸の海沿いのお洒落なカフェを巡るのも良し、離宮公園というヨーロッパ調の大きな公園を訪れるのも良しです♪



🌟Iam a little noter.🌟



 🤍


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