見出し画像

和美と絵梨花〜手書きの名刺~|#短篇小説


この短篇小説は、以下のnoteのお話と繋がっています。よろしければお目通し下さい。


非日常のホストクラブで生まれた恋物語となります。

↓ ↓ ↓



和美と絵梨花

~手書きの名刺~



和美はある食品会社の事務職をしている。職に就いて5年経っているが、最近入ってきた女の子は、もう自分と同じような仕事をこなしている。要するに、ルーティンワークなのだろう。


彼女は元々これという趣味もなく、強いて挙げるなら、時どき雑誌に載っている面白そうな映画をひとりで観に行くくらいだった。


子供の頃から「おかっぱ」で、髪型をとくに変えていないので、中学生の頃買ったブラウスも、合わせて着てみておかしく見えなかった。


その和美と、派手で個性的な絵梨花エリカが親友なのはよく驚かれた。和美を知る側からも、絵梨花を知る側どちらからもだ。



ふたりが知り合ったのは、高校の昼休みの屋上だった。所謂いわゆる「ぼっち」でお弁当を食べる場所を探していた和美は、ある日、屋上の鍵が開いていることに気付いた。


屋上に出て、校庭が見えるあたりに座り、持参したお弁当を食べていた和美に、物陰から声をかけた生徒がいた。


「―――此処は、景色いいから、食べてても気分良いでしょ」


誰も居ないと思っていた和美は、お箸を持つ手をびくっとおののかせた。振り返ると、膝を立てて座りながら煙草を吸う、絵梨花の姿があった。


「ごめんなさい。邪魔をして・・・」


強く吹く風に、小さな和美の声はかき消えてしまった。


「食べてる近くで吸うの、食欲失せるよね。ご免」


絵梨花は屈託なく言いつつ、煙草を挟んだ指を振って


「そっち、風下じゃないから、大丈夫か」と笑った。


(―――こわい人じゃないんだ・・・)


いじめではないが、校内ネグレクトに近い【存在しない人】の扱いを受けてきた和美は、ほっと身体の力を抜いた。―――緊張すると、すぐかちかちに固まって、更にひどくなるとお腹まで痛くなることがある。


「あの、私・・・屋上ここで食べて良いですか?」


それが、和美と絵梨花との出会いだった。



和美は日を追って、次第に絵梨花のそばに座ってお弁当を食べられるようになった。また、打ち解けて話す機会も増えた。口を開くのは、和美のほうが多かったかもしれない。


和美は絵梨花と同じ学年だった。
和美は書道クラス、絵梨花は美術クラスで専攻が違い、離れた組に属していた。学年で数百人いるマンモス校なので、今まで顔を合わせていなかったのだ。


絵梨花が昼、屋上へ上がるのは、喫煙目的だけではなく、お弁当が無いせいもあった。

「学食(学生食堂)の購買で買わないの?」と和美が訊くと、


「お昼、らないんだ・・・食べないから」と絵梨花は答えた。


それでも、和美が食べていると、横で絵梨花がお腹を鳴らすことがあった。


(何か・・・事情があるのかな)


和美はそう考え、黙って翌日から具入りのお握りをふたつ余分に作り、持参することにした。



絵梨花は最初遠慮していたが、

「残ったら、あまり良くないから・・・」


と和美が言うと、それからは包んだラップに一粒も残さずきれいに食べた。



和美と恵梨香の友人関係は、和美が大学へ行っても社会人になっても続いた。絵梨花は高校を出てから有名なフォトグラファーの事務所に見習いで働いていた。


彼女は「モデル」と言っても良いくらい背が高く目立つ風貌だったが、数年して和美が大学を卒業する頃には、独りで任される撮影仕事がぽつぽつ出来たようだった。


和美はいつも、絵梨花から言わせると「世間知らず」だった。色々な場所に「勉強」と称して、連れ回す習いになっていた。


そのひとつが、今回のホストクラブ
“Over Night”だったのだ。




“Over Night”に行った日から、和美のLINEには、事あるごとにホストの片桐涼哉かたぎりりょうやからメッセージが届いた。


朝には

―――「おはよう よく眠れた?
今日もがんばってね」

夕方には

―――「仕事おわった?
おつかれ また会いたいな」

そして夜には

―――「おやすみ いい夢 みてね」


といった具合に。


「―――どうせ、営業なんでしょ」


和美は冷めた目でそれらのLINEを眺めていたが、日々LINEの通知が届き、たまに自撮りの画像が入ったりするのを見ているうち、連絡が途切れると、言いようもない欠落感に襲われるようになってきた。



(何で、涼哉りょうやはホストになったんだろう・・・?)


お店の無地の名刺に・・ネームペンで書いた「片桐涼哉」の名前の文字が、頭に浮かんだ。


(新人ということもあるだろうが)華のある顔立ちのホストが多い中で、涼哉は絵本の「スイミー」の黒いさかなくらい、「普通」だという違和感もあった。




そんなふうに、涼哉が気になっていたあるとき。


和美が何気なく観ていたYouTubeの「おすすめ」に、

【Over Nightの締日しめびナンバー発表!!】


というサムネイルの動画配信があるのを見付けた・・・



【continue】



▶Que Song

テレフォンアレルギー/早瀬優香子





🌟Iam a little noter.🌟



   🤍


※リライトしたらマガジン登録が全部消えたので、再登録させて頂きます。

この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?