『黒いトランク』より、思わず突っ込まずにはいられない

梅田は今朝からタバコ一本すう暇がなかったことに気づいて、ケースから抜き出して一服つけているうちに、このような些細な点にこだわる自分が可笑しく思われてきた。初めて捜査の采配を振うものだから、必要以上に大事をとっているのだ。もう少しふてぶてしくかまえるのが、自分を完成するためにもよいのではないか。彼はそう考えて、自分の頭の中の疑念を、アンドロメダ星雲のかなたなに放り投げてしまった


『黒いトランク』鮎川哲也、光文社、2002年
言わずもがな名作古典ミステリ。怪しい死体の出処と犯人を巡る若き梅田警部補の描写なんだが、どうしていきなりアンドロメダに悩みを放り投げるのか?
ぼんやりと読んでて、いきなりのアンドロメダ星雲という言葉に吹き出してしまった。淡々と事件のあらましや調査の過程を描いていたのに、なぜ急にアンドロメダ星雲というスケールに着地したのか。悩みを放り投げるのは別に銀河でなくてもよかろうに。灰皿とかそこらにあるゴミ箱でも問題はなかろうに。それともあれか、読者の注意を引き寄せるためにあえてのアンドロメダ星雲なのだろうか。そんなツッコミはさておいて、本文は何食わぬ顔で次の段落からまた同じリズムで話が進むのがまた妙に笑いを誘う。

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