もっと欲しいのって言えない
「痛いところをつかれたな。」
Yさんはあっさりそう言ったの。
だから私も、それ以上問い詰めたり責めたりできなくなっちゃった。
「これからは、そういうのはセックスの前にしておいてよね。」
「わかった。」
「楽天のタイムセールだったのよね?」
「うん。いつも23時半くらいから、ユーザーが増えるのか接続に時間がかかるっていうのもあってさ。」
Yさんは朝ご飯の食器をシンクまで持っていきながら、特に気にしている風でもない。
「それで結局、買えたの?母の日のプレゼント?」
「うん。ちゃんと買えた。」
Yさんは、言い訳をしない。ごめんね、も言わない。
だからなんとなく自分が一方的に彼に不満をぶつけているようで、
話せば話すほど、居心地が悪くなってくる。
ずるいなぁ。
上手だ。
「あ、いたいた。」
「なにが?」
「鳥だよ。」
Yさんはニコニコしながら窓の外を指さした。
「鳥?」
「うん。鳴き声だけずっと聴こえていて、ずっと姿は確認できなかったんだ。」
「ねぇ、私の話、聞いてないでしょ。返事をしているふりして、ずっと鳥の事を考えていたのね。」
「いや、聞いていたよ。」
「うそ。」
「うそじゃない。でも、そう思わせたのは自分が悪い。ごめん。」
ここは直ぐに謝るの、本当にずるい。
やっぱり上手だ。
だからセックスも上手なんだろうな、きっと。
なんだか悔しい。
昨夜、乱れたベッドの中で、もっとイキたい?とYさんに言われて本当は、もう少しだけ、っておねだりしたかった。
でも「母の日のプレゼントをタイムセール中に注文したい」って言ったYさんの雰囲気、イヤじゃなかった。
生活感を感じて改めて一緒に暮らしているんだと胸がキュウっとしたし、
家族みたいな存在に恥ずかしい格好を見られているんだと思うと余計にドキドキしたの。
「今日はお客様と約束があるからもう行くけど、夜にちゃんと話そう。話す時間、もらえる?」
Yさんは穏やかで優しい。
声を荒げるところを見たことがない。
「どうせまた違うこと考えてるのかも、って疑いながら話すのイヤだから私、今日は自分のアパートに帰ろうかな。」
イヤな女だな、私。
圧をかけているのが丸わかりだ。
「わかった。じゃあ、夜、必ずアパートへ迎えに行くから。午前中はお客様と打ち合わせだからLINEはできないかもしれないけど、お昼にはLINEできると思う。」
Yさんは私を抱き寄せようとしてくれたけど、私は素直になれなかった。
涙が出そうなくらい悔しかった。
好き。
もっとシてほしかったなんて、恥ずかしくて言えない。
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