信じているから、手を離す。
タクシーに乗っていたら、同じ話をする運転手さんに三回も会った。
「おれんちもインコ飼ってたんだけどね、外に放したら戻って来なかったの。」
「ダメですよ~」と笑いながらも、腹の中で煮えくり返りながらその場は過ごした。三回も同じことをやられるとさすがにキレたくなったが、相手はわたしのことを覚えていないのだろうから仕方がない。
インコを外に放したら戻って来ないのは当たり前だ。ましてや、手のりインコなんて帰り方を知らないのだから、外に放すなんて殺すようなものだ。その子を信じていないのではない。帰り方を教えてないのだから、帰ってこれないのだ。
そんな考え方を人間にも同じ感じで持っていた。
この子の手を離したら、この子はわたしを見失ってしまう。
そう思って、ひとりに執着するとずっと近くにいて、「大好きだよ」って言い続けた。
でも、相手は人間なのだ。どこへでも行く自由がある。
わたしを離れる自由も、戻ってくる自由もある。
手を離さないのは、不安だから。
守っているつもりで、実は守られていたから。
わたしの不安を相手にぶつけてはいけない。
そう思って、信用している人からは手を離すことにした。
わたしが彼らにしてきたことに自信があるなら、また戻ってきてくれるはず。帰ってこなかったら、また一から始めればいいし、ダメならそれはその時なのだ。
バニラさんに対しても、そうすることにした。
彼とはいろいろ話したいことはあるし、聞きたいこともある。
でも、そんなに簡単に揺らぐ関係じゃないと思ったから。
ゆっくり時間をかけることにした。
過去の自分を信じてるから、今の自分も信じていこう。
過去の彼を信じてるから、今の彼も信じていこう。
眠れない夜に、そんなことを考えている。
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