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繰り返し読みたいnoteの記事♪

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うぐが何回も読みたいなと思った記事を収録しました(^^) (ダメな場合はご連絡ください)
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#ファンタジー部門

連載小説(32)漂着ちゃん

「ところでエヴァさん。所長の動きはとりあえず止められました。この先だれが指導者になるか、という話はゆっくり考えるとして、目先のことですが…」 「いま、陰で糸をひく人物がいないならば、町のAI制御の機器はすべて停止しているはずです。私の推測が正しいならば、無法地帯になっているということです。基本的に『漂着ちゃん』しかしない平和な町ですし、所長がいなくなったからといって、すぐさま争乱が起こるわけではありません。しかし、やがて時が経って、地下室の外にいる人間にも所長がいないという

連載小説(31)漂着ちゃん

「エヴァさんは『いちばん最初に来ただけ』とおっしゃいますが、その事実こそがこの町の指導者となる権威になるのではないですか?」 「自らが先頭に立つという気持ちはありません。今まで、不満があってもAIを止めなかった理由の一つでもあります」 「どういうことでしょう?」 「私は『漂着ちゃん』第1号として、この町にやって来ました。だから、誰よりも所長と相対しています。頼る人が誰もいなかった。だから、たとえAIでも誰かにすがるしか選択肢はありませんでした」 「しかし、所長とやり取

連載小説(30)漂着ちゃん

「エヴァさん、これはいったい?」  唐突な出来事に私は戸惑った。 「前からチャンスをうかがっていたんです。このAIを止めてやるって」 「所長はいま、どうなって?」 「寝てるみたいな状態ね。誰かが再びスイッチを入れない限り起きることはありません」 「しかしなぜ?エヴァさんはナオミとヨブには、この時代から出ていってほしかったのではないですか?」 「えぇ、そういう気持ちもあります。さっき所長に言った言葉も本心ですから。ただ、マリアのお兄ちゃんであるヨブとマリアを離れ離れに

連載小説(29)漂着ちゃん

 所長と出会う日になった。私は何度も1人でシュミレーションを重ねた。所長というAIを止めるために。 「じゃあ、いってらっしゃい」 ナオミは心配そうな表情を浮かべながら言った。 「あぁ、行ってくる。もしも…」と言いかけたとき、ナオミは私をさえぎって言った。 「信じてる。大丈夫よ。なるようにしかならない。ただ、無事に戻ってくることを信じています」 「ありがとう。ナオミとヨブを必ず守るから」  私はナオミと視線を合わせずに扉を開けた。  扉を開けると、前と同じように、二人

連載小説(28)漂着ちゃん

 何が正しいのかは分からない。起こってしまったことは元には戻せない。  そもそもこのような自体を引き起こしたのは、未来の私が本来は死者である父に永遠の命を与えてしまったからだ。    AIとは、人工物に過ぎない。AIのすべてを否定するわけではない。しかし、今の私にはAIとしての父を作り出したことにより、自然の摂理に反したことをしてしまったことを後悔する気持ちがある。  所長がいなければ、ナオミと出会うことはなかった。  所長がいなければ、ヨブは生まれなかった。  所長がいな

連載小説(27)漂着ちゃん

 父親である所長との面接から1ヶ月が過ぎた。その間に何度もナオミと語り合ったが、とくに結論らしい結論には至らなかった。  こちらから護衛官を通して、早く所長に私の意向を伝えたほうがいい、と思いつつも、「どうしたいのか?」という私の気持ちが固まらない以上、私から所長のところへ出向く理由はない。いたずらに時は過ぎていった。 「エヴァさんはどうしているかしら?」 ナオミはときどき思い出したように言った。 「どうしてるだろうね。エヴァさんのことも気になるが、マリアのことも気にな

連載小説(26)漂着ちゃん

「エヴァ、今日はよく来てくれたね。あいつには、私が父親であることを話した。今頃あいつはナオミとこれからどうするのか話し合っていることだろう」 「そうですか。とうとうお話になったのですね。彼はきっとナオミとも、あなたとも、そして私とも共存することを考えるでしょうね」 「だろうね。私はそれがいちばんいいと思っているが、君はイヤなんだろう?あまり言いたくはないが、君は自分には子どもなんてできないと思っていた。だからこそ、愛するあいつとナオミとの間に子どもが生まれることを望んだの

連載小説(25)漂着ちゃん

 地下室を出ると、二人の護衛官が待機していた。 「あなたが部屋に戻るのを確認するまで付き添わせていただきます」  地下室へ行く時と同じように、私は両脇を二人に挟まれながら、エレベーターにのった。 「では、これで」  扉が開くと、ナオミがいた。 「お疲れ様です。待っていました。で、どんなお話でしたか?」  私は手身近に、所長との話をナオミに伝えた。 「所長、というか、お父様のことは、私からは何も言えません。もちろん思うところはありますが、あなたの決断に影響を与える

連載小説(23)漂着ちゃん

「ただ、なんでしょう?」 「ただ、私は収容所の所長をしています。心の底では、人類全体のことよりも、あなたの幸せを大切にしたい」 「しかし、それは立場上出来ないと言うことですよね」 「そういうことです。だから、もしもあなたが二人の女と二人の子どもと一緒に生きることを望むならば…」 「望むなら、なんでしょう?」 「幸せを望むなら、一緒に生きるがいい、と言いたい。ただ、私の目が黒い間は、町の掟は守ってもらわねば困る」 「どういうことでしょう?所長が生きている間は、町の掟

連載小説(24)漂着ちゃん

「私がこれからどうすべきか、少し時間をかけて考えさせてくれませんか?いますぐに結論を出すような話ではないと思うのです。AIとはいえ、あなたは私の父親であることに変わりありません。それに、どの時代に生きるかということは、私の一存では決められません。少なくとも、現在生活をともにしているナオミとは相談する必要があるでしょう」 「ナオミさんだけではない。エヴァさんとも話したほうがよいでしょうね。もちろん、あなたには、ナオミさんともエヴァさんとも話し合う時間を与えましょう。けれども…

連載小説(22)漂着ちゃん

「あなたは責任感が強い。二児の父親になった今、もう自殺を考えることはないでしょう。何か意見はありますか?」 「意見は特にありません。あなたの仕組んだこととはいえ、おっしゃる通り、今の私には自殺という選択肢はありません。ただ、できることなら、ナオミとヨブ、エヴァとマリアと同じ時代に生きてみたい。わがままかもしれませんが、私にはどちらかを選択することなどできません」 「私とて、人情はあります。ただ、同じ時代に、同じくらい愛する女と子どもがいたら、女たちはやがていがみ合うことに

連載小説(21)|漂着ちゃん

 私が死のうと思った理由。  あの日、私は死にたいという一心で、雪山を歩いていた。しかし、すっかり忘れていた。私はAge3500からこの世界へやってきたのだった。  人間性というものが、すべて電子化されることに辟易したからだ。そういう私も、あらゆるものを電子化する仕事に携わらざるを得なかったのだ。  こんな地獄のような時代を生きるより、人間が地に足をつけて生きていた太古の時代に生きたいと願ったのだった。 「思い出してきたかな?あなたはこの時代の人間ではなく、Age350

連載小説⑳漂着ちゃん

 収容所所長のAIが話し始めた。 「あなたには、ナオミとヨブ、そしてエヴァとマリアがいる。どちらかを選ぶならそれでいいのですが、みんな一緒に住むことは許されません。のちのちのトラブルのもとにもなりますからね。そこで、私の提案ですが、あなたが二人いれば良いのではないか、という結論になりました」  私が二人?  いったいどういうことだ? 「この収容所の現在の技術を使えば、もう一人のあなたを作り出すことができます。ただ、同じ時代に同じ人間がもう一人いると、いろいろとややこしい

連載小説⑲漂着ちゃん

 私は二児の父親になった。ナオミとの間に生まれた男の子・ヨブと、エヴァとの間に生まれた女の子・マリア。  私はどちらの女性も、どちらの子どもも愛している。どちらか一方をすてることなど出来やしない。しかし、もしも両立することが出来るならば、、、。  収容所所長の提案とは、いったいなんなのだろう?    私はナオミに事情を話した。  ナオミの返事は「あなたのお好きなように」ということだった。「私はエヴァさんのことも、あなたのことも尊敬しています」とも言った。  私は指定された場