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繰り返し読みたいnoteの記事♪

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うぐが何回も読みたいなと思った記事を収録しました(^^) (ダメな場合はご連絡ください)
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#オールカテゴリ部門

連載小説(34)漂着ちゃん

 朝になった。 「そろそろ帰ったほうがいいわね。甘美な一夜になりました。ナオミさんも心配しているでしょうし。朝食をとったら、私が送ります」 「いろいろお世話になりました。これから、私たちはまた会えるだろうか?」 「もう所長はいませんしね。あなたが良ければ、マリアと一緒にいてくださったら嬉しいですけど。しばらく、ゆっくり休んで考えましょう」  エヴァと一夜を明かしたことで、私には不思議な感覚が芽生えた。この町ではじめて出会ったのはナオミだったが、会話をはじめてしたのはエ

連載小説(33)漂着ちゃん

 エヴァに感じたこの違和感はなんなのだろう?しかし、エヴァの話自体には何の矛盾も感じることはない。ただ、直感としか言えない漠然とした不信感が頭をかすめた。  九分の信頼と一分の不信を抱えながらエヴァの言葉を聞いた。  懐かしい茅葺き屋根のエヴァの家が目の前にあった。 「こちらへどうぞ」  私はエヴァのあとに続いて、私も中へ入ろうとしたとき、マリアの寝顔が見えた。 「マリア、お父さんが来ましたよ」とささやくようにエヴァが言った。 「よく寝ているわ。収容所にいるときに目

10の短編 [自選短編集]

 自作の短編小説を集めてみました。 「自選短編集」というタイトルにしましたが、投稿した作品の中で、反応が良かった作品です。その意味では「自選」ではなく「他選」です。 #ネックレス #あの日の償い #なんかさゆらりっているなって #天使と悪魔 #言葉の代わりに #哲学談義・君たちはこのウ○コを食べるか #はぁあ立ち直れないよ #プラダのピアスと苺のショートケーキ #誕生日プレゼント #追憶 #創作大賞2024 #短編集 #小説 #短編小説 #オールカテゴリ

連載小説(32)漂着ちゃん

「ところでエヴァさん。所長の動きはとりあえず止められました。この先だれが指導者になるか、という話はゆっくり考えるとして、目先のことですが…」 「いま、陰で糸をひく人物がいないならば、町のAI制御の機器はすべて停止しているはずです。私の推測が正しいならば、無法地帯になっているということです。基本的に『漂着ちゃん』しかしない平和な町ですし、所長がいなくなったからといって、すぐさま争乱が起こるわけではありません。しかし、やがて時が経って、地下室の外にいる人間にも所長がいないという

連載小説(31)漂着ちゃん

「エヴァさんは『いちばん最初に来ただけ』とおっしゃいますが、その事実こそがこの町の指導者となる権威になるのではないですか?」 「自らが先頭に立つという気持ちはありません。今まで、不満があってもAIを止めなかった理由の一つでもあります」 「どういうことでしょう?」 「私は『漂着ちゃん』第1号として、この町にやって来ました。だから、誰よりも所長と相対しています。頼る人が誰もいなかった。だから、たとえAIでも誰かにすがるしか選択肢はありませんでした」 「しかし、所長とやり取

連載小説(30)漂着ちゃん

「エヴァさん、これはいったい?」  唐突な出来事に私は戸惑った。 「前からチャンスをうかがっていたんです。このAIを止めてやるって」 「所長はいま、どうなって?」 「寝てるみたいな状態ね。誰かが再びスイッチを入れない限り起きることはありません」 「しかしなぜ?エヴァさんはナオミとヨブには、この時代から出ていってほしかったのではないですか?」 「えぇ、そういう気持ちもあります。さっき所長に言った言葉も本心ですから。ただ、マリアのお兄ちゃんであるヨブとマリアを離れ離れに

連載小説(29)漂着ちゃん

 所長と出会う日になった。私は何度も1人でシュミレーションを重ねた。所長というAIを止めるために。 「じゃあ、いってらっしゃい」 ナオミは心配そうな表情を浮かべながら言った。 「あぁ、行ってくる。もしも…」と言いかけたとき、ナオミは私をさえぎって言った。 「信じてる。大丈夫よ。なるようにしかならない。ただ、無事に戻ってくることを信じています」 「ありがとう。ナオミとヨブを必ず守るから」  私はナオミと視線を合わせずに扉を開けた。  扉を開けると、前と同じように、二人

連載小説(28)漂着ちゃん

 何が正しいのかは分からない。起こってしまったことは元には戻せない。  そもそもこのような自体を引き起こしたのは、未来の私が本来は死者である父に永遠の命を与えてしまったからだ。    AIとは、人工物に過ぎない。AIのすべてを否定するわけではない。しかし、今の私にはAIとしての父を作り出したことにより、自然の摂理に反したことをしてしまったことを後悔する気持ちがある。  所長がいなければ、ナオミと出会うことはなかった。  所長がいなければ、ヨブは生まれなかった。  所長がいな

連載小説(27)漂着ちゃん

 父親である所長との面接から1ヶ月が過ぎた。その間に何度もナオミと語り合ったが、とくに結論らしい結論には至らなかった。  こちらから護衛官を通して、早く所長に私の意向を伝えたほうがいい、と思いつつも、「どうしたいのか?」という私の気持ちが固まらない以上、私から所長のところへ出向く理由はない。いたずらに時は過ぎていった。 「エヴァさんはどうしているかしら?」 ナオミはときどき思い出したように言った。 「どうしてるだろうね。エヴァさんのことも気になるが、マリアのことも気にな

連載小説(26)漂着ちゃん

「エヴァ、今日はよく来てくれたね。あいつには、私が父親であることを話した。今頃あいつはナオミとこれからどうするのか話し合っていることだろう」 「そうですか。とうとうお話になったのですね。彼はきっとナオミとも、あなたとも、そして私とも共存することを考えるでしょうね」 「だろうね。私はそれがいちばんいいと思っているが、君はイヤなんだろう?あまり言いたくはないが、君は自分には子どもなんてできないと思っていた。だからこそ、愛するあいつとナオミとの間に子どもが生まれることを望んだの

書くこと・描くこと

 最近、「書くこと」と「描くこと」について考えている。  「書く」も「描く」も同じ「かく」だから、何らかの共通点があるように思う。  note記事のヘッダーとして使うために、自分でイラストを描いたり、写真を撮ったりしているが、一枚の絵(または写真)のどこを切り取ればいいのか?、と悩むことがある。  いま、正方形の中に、パジャマ姿の女の子を1人描いてみた。  この一枚の絵を使って、切り取ったり、ズームアップしたりしてみる。 「配置」(左、真ん中、右)、 「アングル」(まっ

連載小説(25)漂着ちゃん

 地下室を出ると、二人の護衛官が待機していた。 「あなたが部屋に戻るのを確認するまで付き添わせていただきます」  地下室へ行く時と同じように、私は両脇を二人に挟まれながら、エレベーターにのった。 「では、これで」  扉が開くと、ナオミがいた。 「お疲れ様です。待っていました。で、どんなお話でしたか?」  私は手身近に、所長との話をナオミに伝えた。 「所長、というか、お父様のことは、私からは何も言えません。もちろん思うところはありますが、あなたの決断に影響を与える

連載小説(23)漂着ちゃん

「ただ、なんでしょう?」 「ただ、私は収容所の所長をしています。心の底では、人類全体のことよりも、あなたの幸せを大切にしたい」 「しかし、それは立場上出来ないと言うことですよね」 「そういうことです。だから、もしもあなたが二人の女と二人の子どもと一緒に生きることを望むならば…」 「望むなら、なんでしょう?」 「幸せを望むなら、一緒に生きるがいい、と言いたい。ただ、私の目が黒い間は、町の掟は守ってもらわねば困る」 「どういうことでしょう?所長が生きている間は、町の掟

〔短編小説〕嗅覚(エピローグ)

日曜日の午前11時ちょうどに、咲夜は昼食を持ってやって来た。ノックをするや否や、ガチャガチャと開けようとする。 「だーかーら!鍵を開けるまで待てって!」 鍵を開けながら注意するが、ふくれっ面の咲夜は全く怯まない。 「だーかーら!私が来るんだから、鍵を開けておけば良いんでしょ!」 この間と同じ不毛なやり取りをした後、咲夜は弁当とお茶を袋から出した。 「おっ。今日はすき焼き弁当か!」 俺は、暑がる咲夜を横目に冷蔵庫の前に陣取り、弁当を味わう。 「それにしても酷かったわね、あんたの