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繰り返し読みたいnoteの記事♪

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うぐが何回も読みたいなと思った記事を収録しました(^^) (ダメな場合はご連絡ください)
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#私の作品紹介

〔ショートショート〕てるてる坊主の暗号

美雪と付き合って1年が過ぎた。高校生活も残り数か月、地元に残る予定の美雪と、東京に行く予定の僕。美雪は僕に残って欲しいと言うが、僕は美雪に東京の大学も選択肢に入れて欲しい。 話し合いは平行線のまま、ある金曜日に美雪に言われた。 「明日、うちの窓に答えを出すわ」 それ以上は何も教えてくれないので、僕が翌朝見に行くと、てるてる坊主が5つ揺れていた。これはもしや、あの有名な「アイシテル」のサインか! わざわざてるてる坊主でラブレターなんて…とニヤニヤしていたが、よく見ると、それぞれ

連載小説(34)漂着ちゃん

 朝になった。 「そろそろ帰ったほうがいいわね。甘美な一夜になりました。ナオミさんも心配しているでしょうし。朝食をとったら、私が送ります」 「いろいろお世話になりました。これから、私たちはまた会えるだろうか?」 「もう所長はいませんしね。あなたが良ければ、マリアと一緒にいてくださったら嬉しいですけど。しばらく、ゆっくり休んで考えましょう」  エヴァと一夜を明かしたことで、私には不思議な感覚が芽生えた。この町ではじめて出会ったのはナオミだったが、会話をはじめてしたのはエ

〔ショートストーリー〕赤い傘

赤い傘はあたしに似合わないと、中学校からの帰り道、チーちゃんは意地悪く言った。 「あんたみたいに色も黒くてガリガリで地味な子、そんなの似合うわけ無いじゃない」 笑いながらあたしから新しい傘を取り上げると、これは自分のものだと宣言して持ち去った。代わりに、チーちゃんの色褪せたブルーの傘を残して。 チーちゃんは、ずっとそうだった。幼稚園でもあたしが遊んでいるおもちゃを欲しがって、無理矢理取り上げる。取り返そうとすると、 「せんせー!私のおもちゃ、みっちゃんが取ったー!」 と泣き

連載小説(33)漂着ちゃん

 エヴァに感じたこの違和感はなんなのだろう?しかし、エヴァの話自体には何の矛盾も感じることはない。ただ、直感としか言えない漠然とした不信感が頭をかすめた。  九分の信頼と一分の不信を抱えながらエヴァの言葉を聞いた。  懐かしい茅葺き屋根のエヴァの家が目の前にあった。 「こちらへどうぞ」  私はエヴァのあとに続いて、私も中へ入ろうとしたとき、マリアの寝顔が見えた。 「マリア、お父さんが来ましたよ」とささやくようにエヴァが言った。 「よく寝ているわ。収容所にいるときに目

〔ショートショート〕祈願上手

図書館からの帰り道で考えた。何で昔話や童話に出てくる主人公たちは、願い事が下手なんだろう。 「三枚のおふだ」の小僧さんは、おふだに「山姥をやっつけてください!」と言えば良かったのに。「漁師とおかみさんの話」の漁師は、欲深い妻の言うことを最後まで聞かず、「妻を改心させてくれ」と言えば良かった。他にも、願い事が3つだけだと言われたら、3つ目で「私を魔法使いにして!」と言えば、後は好きに出来たのに。全く、誰も彼も下手すぎる。祈願上手な私なら、そんなチャンスをみすみす逃したりしない。

連載小説(32)漂着ちゃん

「ところでエヴァさん。所長の動きはとりあえず止められました。この先だれが指導者になるか、という話はゆっくり考えるとして、目先のことですが…」 「いま、陰で糸をひく人物がいないならば、町のAI制御の機器はすべて停止しているはずです。私の推測が正しいならば、無法地帯になっているということです。基本的に『漂着ちゃん』しかしない平和な町ですし、所長がいなくなったからといって、すぐさま争乱が起こるわけではありません。しかし、やがて時が経って、地下室の外にいる人間にも所長がいないという

〔詩〕焦燥

もうすぐ終わる今日に 両手でしがみついて 引き留めたくなる夜 きっと 明日も何も変わらないのに あれも足りない これも足りない 足りない物ばかり数えて この手には何もないと言うぐらいなら いっそ諦めて 泥のように眠ろう 歴史なんて繰り返さなくていい 一期一会の出逢いももういらない 足りないものはそれじゃない 私の渇きを癒すのは 愁いを帯びた歌謡曲と 遠い異国のレクイエム

連載小説(29)漂着ちゃん

 所長と出会う日になった。私は何度も1人でシュミレーションを重ねた。所長というAIを止めるために。 「じゃあ、いってらっしゃい」 ナオミは心配そうな表情を浮かべながら言った。 「あぁ、行ってくる。もしも…」と言いかけたとき、ナオミは私をさえぎって言った。 「信じてる。大丈夫よ。なるようにしかならない。ただ、無事に戻ってくることを信じています」 「ありがとう。ナオミとヨブを必ず守るから」  私はナオミと視線を合わせずに扉を開けた。  扉を開けると、前と同じように、二人

連載小説(28)漂着ちゃん

 何が正しいのかは分からない。起こってしまったことは元には戻せない。  そもそもこのような自体を引き起こしたのは、未来の私が本来は死者である父に永遠の命を与えてしまったからだ。    AIとは、人工物に過ぎない。AIのすべてを否定するわけではない。しかし、今の私にはAIとしての父を作り出したことにより、自然の摂理に反したことをしてしまったことを後悔する気持ちがある。  所長がいなければ、ナオミと出会うことはなかった。  所長がいなければ、ヨブは生まれなかった。  所長がいな

連載小説(27)漂着ちゃん

 父親である所長との面接から1ヶ月が過ぎた。その間に何度もナオミと語り合ったが、とくに結論らしい結論には至らなかった。  こちらから護衛官を通して、早く所長に私の意向を伝えたほうがいい、と思いつつも、「どうしたいのか?」という私の気持ちが固まらない以上、私から所長のところへ出向く理由はない。いたずらに時は過ぎていった。 「エヴァさんはどうしているかしら?」 ナオミはときどき思い出したように言った。 「どうしてるだろうね。エヴァさんのことも気になるが、マリアのことも気にな

連載小説(26)漂着ちゃん

「エヴァ、今日はよく来てくれたね。あいつには、私が父親であることを話した。今頃あいつはナオミとこれからどうするのか話し合っていることだろう」 「そうですか。とうとうお話になったのですね。彼はきっとナオミとも、あなたとも、そして私とも共存することを考えるでしょうね」 「だろうね。私はそれがいちばんいいと思っているが、君はイヤなんだろう?あまり言いたくはないが、君は自分には子どもなんてできないと思っていた。だからこそ、愛するあいつとナオミとの間に子どもが生まれることを望んだの

〔ショートショート〕文学トリマー

私の仕事は「文学トリマー」。世の中には偽物の文学作品が多すぎる。仲間を裏切ったり、国家に逆らったり、不倫や殺人を美化するようなもの、本物の文学なんかじゃない。 「文学トリマー」は、ちゃんとした国家資格を持つ、一握りの優秀な人間だけに許された仕事だ。エセ文学作品をあぶり出し、即座に回収、廃棄処分にする。この国の美しい秩序を守るために、必要不可欠な仕事。誰に何を言われようと、私は自分の仕事に誇りを持ち、全力で励んでいた。 だがある日、暴動が起きた。頭の悪い連中が「読みたい物を

超短編小説「精霊の火祭り」

ある村で毎年行われる精霊の火祭り。村人たちは夜になると神聖な火を灯し、精霊たちを迎える準備をする。その火は、村を包み込む暖かさと安心感を与えてくれる。そして、時折現れる幻影が、村人たちに幸せと希望をもたらす。精霊たちと村人たちが共に笑い合い、祈り合うその姿は、まるで永遠の絆を感じさせる。その夜、村は神聖な光に包まれ、幸せが広がっていた。

連載小説(25)漂着ちゃん

 地下室を出ると、二人の護衛官が待機していた。 「あなたが部屋に戻るのを確認するまで付き添わせていただきます」  地下室へ行く時と同じように、私は両脇を二人に挟まれながら、エレベーターにのった。 「では、これで」  扉が開くと、ナオミがいた。 「お疲れ様です。待っていました。で、どんなお話でしたか?」  私は手身近に、所長との話をナオミに伝えた。 「所長、というか、お父様のことは、私からは何も言えません。もちろん思うところはありますが、あなたの決断に影響を与える