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《連載ファンタジーノベル》ブロークン・コンソート:魂の歌声

前回

6.寵愛ー(2)

 ベイエリアのFM局は、この坂の先にある。
「うわあ、聞きしに勝る凄さだわ」
 スザンナは急勾配の坂を見たあと、ダッシュボードの時計を確認した。時間がない。助手席のジミーは微かな寝息を立てている。スザンナは勢いよくサンダーバード・コンバーチブルを路肩へ寄せた。ジミーの身体が左右に揺れた。思わずパナマ帽を押さえる。
「なんだよ」
 と言ったところで、スザンナからの返事はないだろうと思いジミーは帽子を深く被り直した。
「交代して」
 スザンナからすぐに返事が返ってきた。
「まだ2時間も経ってないぜ。今日は大切なラジオ出演だから疲れさせないって言ってなかったか?」
 今度は返事がない。ジミーは運転席のスザンナ越しに歩道先の斜めになった建物を見た。
「ま、このお嬢様を乗りこなすのは、俺の方が上手いからな」
 スザンナはジミーに鋭い視線を送ってから車外に出た。このクセのある車はおとなしくできるのに、横にいる女には目もくれない男をスザンナは歯がゆかった。
 スザンナが助手席でシートベルトを締めた時だった。二人組の警官に声をかけられた。
「免許証のご提示をお願いします」
 30代後半ぐらいの金髪で短髪の警官が、運転席側のドアに手をついて言った。
「何か違反しました? ここは駐車禁止エリアなの? 何色でもないでしょ」
 FM局出演が迫っているので、スザンナは焦っていた。
「いいから、おとなしく従おう」
 ジミーはコンソールボックスから免許証を取り出して警官に差し出した。
「すみません、そちらの方も」
 スザンナは納得がいかないという顔つきで助手席前のグローヴボックスを開け、ゴソゴソと探し出した。
「あれ? どこいったかな」
 二人組の警官は同時にスザンナを睨みつけた。
「大丈夫、ありますから」
 スザンナは口角をしっかりと上げ精一杯の笑顔を作り、警官へ免許証を渡した。金髪の警官は免許証を確認するとスザンナとジミーへ交互に視線を送り言った。
「申し訳ありませんが、署までご同行願います」
「は? どういうこと」
「連行するようにとの指示がでておりまして」

 スザンナとジミーは3番通りに面したサンフランシスコ警察本部に連れてこられた。
「まったく、何がなんだかさっぱりわからないわ」
 スザンナはため息をつきながら、留置場内の公衆電話の受話器を握った。
「誰かにハメられたとしか思えない」
 スザンナは電話のボタンを押しながら、ふとある人物を思い浮かべた。
「ママ……?」
 番号を押し終わると同時に口にしていた。
「もしもし? どちら様?」
 受話器から聞きなれたセスの声が聞こえてきた。
「あ、セス。大変なことに巻き込まれちゃって、ラジオ局に行くことができないでいるのよ。それで、ベイサイドFMに音源だけでも送って欲しいの」
 スザンナは早口でまくし立てた。
「ひいっ!」
 足元に3匹ものゴキブリが走ってきて思わず声をあげるスザンナ。
「なに、もう祝杯をあげてんのか」
 スザンナは、のんきなセスの返しにさらにパニック状態になった。
「祝杯どころじゃないわ、シスコ警察に連行されたのよ!」
「警察って、僕をからかってんの? ジミーの曲、流れてるよ」
 セスの声が一瞬消え、ジミーの心地よい歌声が聞こえた。その瞬間、薄汚れた留置場から一足飛びに草原へ連れていかれたようだった。
「セス、本当に私とジミーはシスコ市警にいるのよ」
 そう言ったあと、ジミーの歌声がすぐ近くで聞こえてきた。
「この館内全体に流れている」
「いや、サンフランシスコ全体に流れているんだよ」
「どうなっているの?」
 スザンナは公衆電話を握ったまま、流れてくるジミーの歌声を身体に取り入れた。

                               つづく
 

 

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