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『ドルフィン・エクスプレス』っていう超いい作品があるから知ってくれ〜!!

はじめに

初めまして! のり川と申します。

この記事はいわゆる「布教記事」です。今回は私が好きでやまないある本について紹介させてください。

早速ですが、皆さんは『ドルフィン・エクスプレス』というシリーズをご存知ですか?

おそらく大半の方は知らないし、名前も聞いたことがないのではないでしょうか。

簡単に説明すると、『ドルフィン・エクスプレス』は岩崎書店から刊行されていた児童書のシリーズです。作者は竹下文子さん。全部で5巻発行されています。

そう、『ドルフィン・エクスプレス』は児童書です。私がこの本に出会ったのは小学生の時で、私にとっては初めて読書の面白さを教えてくれた作品です。私は滅多に一度読んだ本を再読しないのですが、このシリーズだけは二十歳を超えた今でも時たま読み返します。

なぜか? それはひとえにこのシリーズが、

めっっっっっっっちゃ良い作品だからです。

児童書は、当然ですがメインの読者層が小学生です。そのため、なかなか有名になりにくいジャンルなのではないかと個人的に思います。

だからこそ、こうした良作が埋もれてしまっているのはとてももったいないと思い、この記事を書くことにしました。

オトナ帝国しかり、優れた作品は子供向けに作られていたとしても目の肥えた大人でも楽しめることは周知の事実です。『ドルフィン・エクスプレス』もそうした作品の一つだと思っています。

ところで、初めに言ったようにこの記事は「布教記事」です。本音を言うと、私は皆さんにも『ドルフィン・エクスプレス』を読んで欲しいと思っています。

しかし、シリーズの第1作が刊行されたのはもう20年前で、電子版もありません。そのため「読んで欲しい」と言いたいのは山々ですが、入手が難しいためなかなか気軽にそう言えないのが現状です。

だから「知って」欲しい。
世の中にこうした良い作品があるということだけでも知っていただければ、それだけで幸いです。

長くなりましたが、この記事では二つの観点(+おまけ)から『ドルフィン・エクスプレス』の魅力を伝えたいと思います。

(※以降は『ドルフィン・エクスプレス』を『D・E』と表記します。)

その1.児童書とは思えない主人公、テール

『D・E』シリーズは、ジャンルとしてはファンタジーです。この世界とは少し異なる世界が舞台で、登場人物は全員猫の獣人のような姿をしています。

シリーズ第1作『ドルフィン・エクスプレス』

そんな『D・E』シリーズの主人公が、こちらの画像のテールです。彼は典型的な「巻き込まれ型主人公」で、彼がさまざまな事件や出来事に遭遇するのがストーリーの基本構成になります。

テールについて、特筆すべき点はまずその職業です。彼は、ある港町で宅配便の配達員をしています。シリーズ名にもなっている「ドルフィン・エクスプレス」とは、彼が所属している海上専門の運送会社の名前です。

そう、『D・E』はファンタジーですが、その主人公は勇者でも冒険者でもなく、一介の労働者です。

会社の歯車であるテールは、徹夜で仕事をしたり、上司から嫌味を言われたりします。その姿は、子供たちよりもむしろ社会人の方が共感できるかもしれません。

近年、人気作品の中には「これほんとに子供向け?」と言われる作品があります。『D・E』シリーズには陰鬱さや過激さはありませんが、ときにファンタジーとは思えない「生々しさ」が特徴の一つです。

そもそも、テールはなりたくて配達員になったわけではありません。ここがテールというキャラクターの最大の特徴です。

テールは生まれてすぐに両親を失い、幼少期はずっと孤児院で過ごしていました。そこから追い出され、街に出た彼はヨットレーサーになります。

その後彼は大会で2度優勝するなど、束の間の栄光を掴みます。しかし、徐々に成績が落ち始め、結局プロのレーサーになることを断念します。レーサーだった経歴を活かして、運送会社に就職し、現在そこで働いている、というわけです。

そう、テールはこれから夢を掴むのではなく、「すでに夢に敗れている」という、およそ児童書の主人公とは思えない背景の持ち主です。

当然、未だテールはプロレーサーを目指していた頃の未練を断ち切れていません。レーサーだった頃のヨットを手放すこともできず、叶えられなかったかつての夢を忘れたいかのようにがむしゃらに仕事に打ち込みます。

『D・E』の第1作は、挫折したテールがどのように過去と向き合うのか、それがストーリーの一つの主軸になっています。

人は誰しも夢を持ちます。時には夢に近づき、ずっとこの絶頂の日々が続くような錯覚に陥る時期もあります。しかし、その多くは長く続かず、やがて現実を知ります。

テールはまさに、この「現実」の中を生きているキャラクターと言えるでしょう。

ろくでなしにはなりたくない。なさけない人生をおくりたくない。必要なものはじぶんの手でつかみとってやる。すくなくとも、いま、じぶんが、じぶんだ、と自信をもっていえる生き方をしたい。
ーーー『ドルフィン・エクスプレス』より引用。

その2.僕たちはどう生きるか?

『D・E』の最大の魅力は、シリーズ全体に共通しているテーマです。ただ、これは作者の竹下文子さんが明言しているわけではないので、私独自の解釈によるものであることをあらかじめご了承ください。

私が考える『D・E』シリーズのテーマ、それは「なるようにならない日々をどう生きるのか?」です。

前項で触れた通り、主人公のテールはかつて夢破れ、心にモヤモヤを抱えたまま日々を過ごしていました。彼がどうやって新たな一歩を踏み出すのか、それがシリーズ第1作の『ドルフィン・エクスプレス』の重要なポイントになっています。

以降のシリーズでは、テールは仕事を通してさまざまな人に出逢います。彼らの中には、「なるようにならない日々」を過ごしている人がいます。
例えば、配達員として働きたいと思っているのに、親から「そんな仕事はみっともない」と言われ反対されている少女がその一人です。

テールと出会ったことで、彼ら彼女らにどのような変化が訪れるのか。それが『D・E』シリーズの見どころです。

前述の通り、『D・E』シリーズはファンタジーです。各編には物語のキーとなる不思議なアイテムや能力が登場します。

しかし、それらがひみつ道具のようにテールを含め登場人物たちの状況を好転させるわけではありません。あくまで変化のきっかけを与えるだけです。

生きていると、色んなことが起こります。日々の生活は、なかなか自分の思い通りというわけにはいきません。

『D・E』はそうした生活から逃げ出して、新たな日常を始めることを勧めるわけでも、「どうしようもないのだから諦めろ」と諭すわけでもありません。

「なるようにならない、しかし生活は続く」そうした現実をどう受け止め、どのように前へ進むのか、『D・E』はそんなふうに読者を励ましてくれます。

さがして、さがしながら、みつかっても、みつからなくても、おれはどんどんいくよ。いきあたりばったりや、その場のおもいつきや、くだらない失敗をくりかえして。
ーーー『三日月ジョリー』より引用。

おまけ カッコいいとはどういうことか教えてくれる男。サンゴロウ

実は、『D・E』シリーズには前身となるシリーズがあります。それが『黒ねこサンゴロウ』シリーズです。『D・E』と同じ世界観で、船乗りであるサンゴロウの冒険を描いたシリーズです。もしかしたら『D・E』は知らなくても、こっちは知ってるという人もいるのではないでしょうか?

黒ねこサンゴロウシリーズ『旅のはじまり』


そんなサンゴロウは、『D・E』にも登場しています。前作主人公というだけあって、ひときわ魅力的なキャラクターになっています。

自由な船乗りであるサンゴロウは、企業の一員として働いているテールと対比的な立ち位置になっています。

「運命なんてものはなく、偶然があるだけ」というある種乾いた価値観を持つ彼は、言動全てがまるでハードボイルド小説の主人公のようにカッコよく、登場するたびにテールの座を食わんばかりの存在感があります。

『D・E』単体でも十分楽しめますが、『黒ねこサンゴロウ』シリーズを読んだ後に読むとより楽しめる構成になっています。


おわりに

いかがだったでしょうか。正直全然伝えられた気がしませんが、「そんな作品があるんだなあ」と思っていただければ幸いです。

…さて、ここで一つ、ここまで読んでくれたみなさんに謝らなければならないことがあります。

記事の冒頭、『D・E』について私はこんなことを言いました。「20年前に発行されたので、入手が難しい」と。

すみません。嘘言いました。

なんとこの度『ドルフィン・エクスプレス』シリーズは、岩崎書店から偕成社に出版社を移し、新たに『三日月島のテール』シリーズとして新装版が発売されることになるそうです!

発売日は今年(2022年)の6月1日になります。この記事の目的は『ドルフィン・エクスプレス』シリーズを「知ってもらう」ことですが、もし、ここまで読んで少しでも興味をもっていただけたら、是非ともご一読ください!

では、今回はここらで失礼いたします。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!


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