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遮断機の中で


「なんだ、わたしってこんなに生きたかったのか。
それならきっとこの世界も良いものなのかもしれない。」


日本以上に治安の良い国などあるのだろうか。
もちろん犯罪は横行しているし命を奪う事件だって連日続く。
しかし、夜道に1人で歩いても高い確率で生還すること、財布を2度落として2度とも無傷で帰ってきたこと。
これらを考えると生命活動を続ける上で日本はうってつけではないのだろうか。

それでもたまに生きた心地がしない時がある。
それは危機感を覚えたり事故にあいそうになったとかそういうわけではなく、どこか慢性的な感覚だ。

なんのために生き、生命活動に執着し、死を恐れる。
もちろんそう感じてはいるが、なんだか薄い気がしてならない。

しかし、明らかに生きたいと思うが故の行動をしていることに気づいた。

いつも通る踏切、仮にど真ん中で鳴っても歩いて渡り切ることができる、それほど大きくないごく一般的な踏切。

警鐘が鳴った瞬間、小走りでそこを切り抜ける

日常すぎてなんとも思わなかったが、何度もそうなって同じ道を通る人を追い抜いていった。
杖をつく老人からベビーカーに乗る子供まで、老若男女問わずたくさんの人が通るそこを、私は我先にと逃げるように走っては安心する。

内なる私が叫んだ「生きたい」という信号は条件反射で脳を通さず足へと命令を下していた。

なんだ、わたしってこんなに生きたかったのか。
それならきっとこの世界も良いものなのかもしれない。

些細なことだが、わたし自身に耳を傾けた…というよりも、偶然聞こえてきたのだが。

でもそれを知れたから、なんだか世界が前よりも清々しく見えた気がした。
少しだけ。

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