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書店が減っているのは、小説が売れないせいではない?

出版科学研究所の発表をもとに、HON.jp News Blogが「コミック」「書籍」「雑誌」の2023年の販売額を公表していました。
過去にもこのデータを見た記憶はありますが、商業デビューしてから見ると、今までと違ったことがグラフから読み取れます。
僕は他の業界に長くいたので、出版業界にはそれほど詳しくありません。少ない知識しかない無名の新人作家がデータを見て考えた雑感だと思ってください。

「HON.jp News Blog」より

コミックは過去最高の売り上げ

まず、驚いたのは、コミックの復調です。コミックは過去最高の売り上げ記録を更新しています。
本離れが叫ばれている中、コミックの売り上げが伸びている理由は、グラフを見れば一目瞭然、電子コミックの貢献です。
このデータによると、コミック全体の電子コミックの売り上げは紙媒体の3倍以上です。

電子コミックの売り上げは、一般消費者が支払った金額ということなので、いわゆる「無料配信」などの売り上げは含まれておらず、実際の出版社の売り上げはもっと大きいと思われます。
この数字を裏付けるように、コミックを販売している企業は好決算を続けています。
一方、紙媒体、特に紙コミック誌は壊滅的に減っています。週刊誌を争って買っていたのは昭和の思い出話になっているようです。

「HON.jp News Blog」より

横ばいの書籍

書籍はざっくりいうと横ばいです。この数字には僕の「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」も含まれているはずです。
改めて見ると、思ったより減少していないように見えます(減ってはいますが)。この20年で2割ぐらいは売り上げを減らしていますが、ここ数年は横ばいという表現が近いと思います。
こちらは書籍なので、小説とは限りません。

コミックと大きく異なるのは、電子書籍の割合です。書籍の売り上げのうち、電子書籍が占める割合は1割程度。紙書籍の減少を補完できていません。
さらに、電子書籍の売り上げは、ここ2年減少しており、コミックとは対照的です。

一応、言っておきますが、「だから悪い」と言いたいわけではありません。僕自身、紙の本は大好きですし、自分の本が書店に並んだ光景を見たときは感動しました。売り上げデータから読み取れたことを言っているだけですので。

「HON.jp News Blog」より

減少し続ける雑誌

最後に、雑誌。こちらはこの20年間減り続けています。ここ数年でようやく底を打ったようにも見えますが、この20年で6割減少しています。

「HON.jp News Blog」より

どのような種類の雑誌が減っているのでしょうか。こちらは2022年度のデータですが、大きく減っているのは、週刊誌と月刊定期誌です。
週刊誌と月刊定期誌で得られる情報をネットで取得している人が増えているのでしょうか。

出典『出版指標 年報 2023年版』

意外なのは電子書籍の売り上げがほとんどないことです。様々な電子サービスのサブスクで雑誌が読まれている感じはしますが、雀の涙程度の収入なのでしょうか。NTTドコモが運営する「dマガジン」の会員数が減少していることが減少の背景にありそうです。

本屋が減っている原因

この20年で書店の数は半減しました。
本離れにより書店が減っているとよく言いますが、実際には「紙媒体のコミックと雑誌」離れだということがこのデータからわかります。
特に減っているのは、地方などの小型書店です。大型書店はそれほど減っておらず、総売り場面積は大きく減っていません(近年は、この数字も減少傾向ではありますが)。
街の書店で、毎週・毎月雑誌を定期的に買っていた層と、その雑誌を読んで単行本が出たらコミックを買っていた層が減少したため、小型書店数が減っていると思われます。

電子化への取り組みの違い

電子書籍が伸びているコミック系の出版社が活況を呈し、一般書籍を扱う出版社の売り上げは横ばいないし減っています。
ここまでの数字から分かるように、電子化への取り組みの違いが、大きな差となっているわけです。
書籍を販売する出版社は書店と協力して、本を売ってきました。書店に本を並べてもらい、売っていただくことがベストセラーを出す必勝法だったわけです。

コミックのことは、よくわかりませんが、書籍ほど書店の繋がりがなかったのでしょうか。結果的に、コミックは書店での売り上げを大きく減らして、電子書籍の売り上げを伸ばしたように見えます。
全体の売り上げは大きく伸びているので、企業としてはコミックを販売する出版社の取り組みは成功だったと言えるでしょう(本屋さんにとっては辛いことですが)。

書籍が書店で店頭に並べてもらうことで顧客にリーチしているのに対し、コミックはアニメやドラマを通じて顧客に周知しているからかもしれません。
コミックは以前から立ち読みができないように封がしてあり、店頭で中身を確かめることができません。本屋でページをめくって欲しいコミックを見つけるよりも、新刊が出たから買いに行く層が多かったように思えます。
アニメを観て、面白そうだからコミックも買おうという人たちも今は多そうです。
「進撃の巨人」や「葬送のフリーレン」などのヒットアニメのコミックの売り上げは数千万部単位で、小説では考えられない数字を叩き出しています。
アニメを観て、書店で紙のコミックを買うより、スマホで気軽に買って読むほうが現代的なのでしょう。
スマホアプリでコミックを読む層が急増し、新たな市場も開拓されているのもコミックの電子書籍化を後押ししていると思います。

小説は好きな著者の新刊を指名買いする人もいますが、書店を回遊して気になる表紙や帯の本を手に取り、冒頭を読んで、気に入ったら買う人も多いのではないでしょうか。
だからこそ、書店の店頭に本を並べてもらうことが大事で、小説は書店と共に発展してきたのだと思います。

最近では、小説もメディアミックスによる販売を目指す試みが増えてきています。書店の数が減り、書店で見つけてもらう機会が減少したので、映画やアニメの原作として、小説の存在を知ってもらおうというわけです。

繰り返しますが、紙の本が悪いと言っているわけではありません。
紙の本には大きな価値があり、宝探しをするように本屋で好きな本を見つけるのはとても楽しいことです。

小説で紙の本が好まれるのは、書店さんとの繋がり以外にも、芸術的ともいえる装丁を纏った物としての価値、コミックよりも読むのに長い時間を要するから紙のほうが都合が良いなど、様々な理由があると思います。

紙の本を今後も売り続けるには、書店の存在が不可欠です。書店がなければ、指名買いされる一部の有名な小説しか売れなくなってしまいます。
書店を維持するために、貸し棚を設けたり、オーナーの趣味を反映させた個性が強い書店をつくったりするなどの試みも各地でなされています。

作家としての僕は、書店さんの売り上げに貢献するために、良い小説を作っていくしかないと思っています。

ここに書いた業界分析は、業界経験が浅い僕が思ったことなので、ちょっと自信がありません。
間違っている点がありましたら、教えてくださいませ。

初の商業出版です。よろしかったら。


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