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『破れ傘刀舟』はなぜ今は愛されないのか?|Essay

「テメーら人間じゃねえ、オレが叩っ斬っちゃる!」
――小学校の休み時間、は友だちと校庭の片隅でチャンバラごっこに興じていた。はいつもこのセリフを抑揚をつけて叫びながら、悪人たちを次々と斬り倒した。

子どもの頃って遊びの流行り廃りバイオリズムみたいなものがあって、このときはチャンバラだった。刀はそのへんで拾った棒っきれや傘、箒などを使う。この決め台詞が『破れ傘刀舟 悪人狩り』のものと知ってはいたけど、私はほとんどこの番組を見たことがなかった。

子どもの頃の忘れ物をとりに、アマゾンプライム配信版をいま視聴している。在りし日の萬屋錦之介の迫真の演技と、物語の濃密なエピソードに引き込まれる日々が続いている。

主人公の叶刀舟(かのうとうしゅう)は、長崎で医学を修めた蘭方医であり、剣術の達人でもある。弱き者を助け、悪を成敗するという、正義感あふれる人物だ。刀舟は、単なるヒーローではなく、人間味あふれるキャラクターでもある。酒好きで、お調子者なところもある。しかし、弱き者を思いやる優しさと、悪を許さない強さも持ち合わせている。

また、刀舟を支える仲間たちも魅力的だ。仏の半兵衛、伊庭弥九郎、稲妻のお蘭、むっつりお竜――個性豊かなキャラクターたちが、刀舟の活躍を盛り上げてくれる。

だけど美南さん(仮名)はこう言うんだ。美南さんはアラサーの会社員。趣味は時代劇鑑賞だけど、価値観は現代的でボディポジティブで、かなり理知的な感じの女性だ。

美南さん:でも、いまの価値観からするとちょっと問題あると思うよ。

オジサン:え、どういうこと?

美南さん:まず正義の味方という単純な図式が相容れないよ。正義の定義は人によって異なるし、刀舟の行動が必ずしも正義であるとは限らない。

オジサン:確かにそうかもしれない。だけど、当時の時代背景や社会情勢を考えると、刀舟の姿は人々に希望を与えるものだったんだろうね。

美南さん:それはわかるけど、暴力を美化していると批判される可能性もあるよ。番組では悪人たちをバッタバッタと斬り倒す殺陣シーンが有名だけど、あれって若い子は怖いって思うみたいよ。

オジサン:うん、暴力的な描写は多いね。でもね、あれはあくまでも時代劇の演出だから、深く考えなくてもいいんじゃない? 刀舟の正義感や怒りを感じてもらう演出だよ。それに、それで視聴者にスカッとしてもらうのもテレビの役割だったし。

美南さん:そうかもしれない。でも、女性蔑視の描写はどうかなあ。稲妻のお蘭やむっつりお竜は、刀舟に従属する存在として描かれてるんじゃない?

オジサン:それはそうだね。これも当時の時代背景では当たり前のことだったからなあ。

美南さん:いまは女性の地位も向上しているし、これからの時代劇は、女性が武士道や剣術に秀でたり活躍する様子を描くことで、男尊女卑の視点を打破すべきだよ。それか、物語内での不平等や偏見を正直に映像化したうえで、それに対する批判をメタ物語として組み込むことで、視聴者に社会的な問題に対して考えてもらうか。そう思わない?

ちなみに冒頭の「」は美南さんのお父さんです。
お父さんは隣で苦笑いしてましたよ。

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