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「未来」と名づける子の未来|Essay

あなたは「池中未来(ミク)」という子をおぼえていますか?

1980年代初めに人気を博した日テレ系列の『池中玄太80キロ』。ドジで騒々しいけど熱血漢な報道カメラマンの玄太(西田敏行)が、急逝した妻が遺した三姉妹の子育てに奮戦する人情ドラマでした。

しっかり者の長女・絵理(杉田かおる)、まだ幼くあどけない三女・弥子(安孫子里香)に挟まれて、少しクールな小学生という設定が未来=ミク(有馬加奈子)です。かすれた声が役柄にマッチしていたと記憶します。

三姉妹の中では出番も少なかったはずですが、気になる存在でした。なぜなら同じ「未来」と書いて「ミキ」と読ませるいとこが私にはいたからです。

家庭の事情で、4歳の未来=ミキと半年ほど一緒に生活しました。年の離れた姉しかいない私には、初めての妹は新鮮でした。鼻ペチャでよく泣いて、一人でおしっこができません。一緒に遊んでいても途中からグズりだして困ったりもしました。兄らしいことは何一つしていませんが、彼女がいるだけでお兄ちゃんというフワリとした気持ちに包まれました。

それから数年ののちに親が離婚し、母に連れられた未来=ミキと私は会うことはなくなりました。心がどこか半開きのとき、テレビでちょうど同じ年頃の未来=ミクに出会いました。面影はほぼ感じられなかったので、名前の字面が同じというだけでつい感情移入したのだと思います。

考えてみれば日本は不思議な国です。わずか150年前に整えた氏名制度によって、無尽蔵の姓と名を生み出しているのですから。複数の漢字を組み合わせ、各々の音と訓の読み方でアレンジします。名乗り訓という当て字の伝統もあります。この自在さがキラキラネームの源流なのでしょう。こと名前に関しては、日本はダイバーシティを実現しています。

ミク、ミキ、ミライという音をのせて「未来」と名づけることもそうです。そもそも名前に「未来」の字をあてがう言語はそう多くはないでしょう。英語圏にfuture(フューチャー)くんや、ロシアにбудущее(ブードゥシェ)ちゃんはおそらくいません。中国語で未来は“ウェイライ”と読むそうですが、そんな名前は存在しないようです。

子に「未来」を託す命名文化を持つ国――この淡い幸せを守るには、未来が「今よりもよいもの」であり続けることが必要です。「成長」を超える思想をみつけ、行動し、笑いさざめくことが、私たちにはできるはずです。

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