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海外ホームステイ悲喜こもごも(も桃のうち)|Episode

そういえば少し前に『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』を観た。英国の7人の熟年男女がインドはジャイプールのホテルにロングステイしながら、新たな生き方を模索する姿を描いた映画だ。老後のライフスタイルを考える上で参考になるかと期待したが、思ったほどの発見はなかった。

代わりにこの映画が呼び起こしたのは、私自身が1990年代に短くも濃密な海外の間借り生活を送っていた頃の記憶だった。きれいさっぱり忘れ去る前にちょこっと書き留めておくよ。

グアテマラ・アンティグアのHOME MADE家族

20代半ばでこじんまりと美しいアンティグアに語学留学した。中の上くらいの家庭にホームステイした。

まず出会ったのは、色鮮やかな花々に囲まれた中庭を駆け回る子どもたちの笑い声。お手伝いさんのマチルダは痩せぎすだが、三日月のような笑顔で私たち留学生のスペイン語の話し相手になってくれた。

問題は悪ガキのマリアホセ。いたずら好きの彼女は、ミズーリ州女子の部屋に忍び込んで勝手に化粧品を使ったり、ティッシュを箱から全部出したり、嫌がる大型犬にまたがったり、アンゴラ村長ばりの速なわとびを披露したりといつも大騒動! でもお兄ちゃんに半泣きで反論する姿なんかが、キュートで憎めないんだよね。

そしてもう一人、四十絡みのシャイな商社マンのフランツ。1ヵ月の有休を使ってドイツからやってきた彼は、仕事に役立つ語学スキルを磨くために留学していたんだ。でも、なぜか子どもが大の苦手で、子どもたちがいるときは部屋に引きこもってしまうことも…

ある日の夕食どき、黒い入道雲から雷鳴がとどろき、停電が起きた。薄闇のなか、ろうそくの明かりで食事をする私たち。マリアホセはおもちゃで遊んでいたんだけど、うっかりフランツのグラスにぶつけてしまい、彼のズボンをびしょ濡れに…

マリアホセは緊張した面持ちでフランツを見上げる。普段はぶっきらぼうな彼だけど、意外にも優しい笑顔で「大丈夫だよ」って❤ このときばかりはお得意の「シャイセ!」という口癖も封印していた。

談笑を続けるなか、フランツが意外な言葉を口にした。「実は雷が苦手なんだよ」。…心細かったのはフランツも同じだったんだ。

スペイン・マラガのHOME MADE家族

この地で過ごしていた頃がたぶん、人生で最も生き方に迷っていた時期だったなあ。サラマンカに語学留学したのはいいが、伸びしろがないことに気づかされて、失意のなかバスでひたすら南下し、たどりついた海辺の街。

寒空から逃げ、働くことから逃げ、すがったのが「南」のイメージ。マラガにはキラキラ光る波とディレイして流れる時間があった。

下宿先のおばさんはベネズエラ出身のドーニャ・ミランダ。夫を亡くしており、マンションの空き部屋を今でいうエアビーみたいに活用していた。ベネズエラの政情やインフレ経済を嫌ってスペインに移住したそうだが、詳しいことは打ち明けてもらえなかった(当時から旅行者の間ではヤバい国だと評判だった)。でも、ときどきアレパというベネズエラ料理をつくっては、うるわしきかの地の思い出話に花を咲かせた。

もう一人の同居人は、謎の単身赴任オッサン。ほとんど顔を合わせないはずなのに、ある夜たまたま夕食を一緒に外で食べることになり、酒が入ったあとなぜか意気投合して彼の事務所へ。

でもこれが悪夢だった。オッサンは酒を用意したのはいいが、ビデオデッキに無修正のエロビデオをセットして流しだした。そしてでっぷりとしたお腹をさらけだし、ズリセンをかましはじめる。おまえも一緒にやろうぜ、みたいなことを言ってる。

「ヤバい…たちの悪いゲイだ、こいつ…」とおそれおののいた。2人しかいない空間で、間取りもよくわかっていないから逃げようがない。ひたすら横を向き、居心地悪いオーラを全開にしていると、からかい半分で興ざめしたのか、発射にいたることなく儀式は終了。ホッ…

予想だにしていなかったので、対処方法がまったくわからず、とてもこわかった。体格差=戦力差だから、カマを掘られていてもおかしくないシチュエーションだったのだ。久しぶりに思い出したけど、いまでも恐怖が消えない。トラウマ案件に認定だな。

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