見出し画像

おうちに枯れた花が届いたら〜空耳アワーのススメ〜|Episode

あれは秋なのか、涼しくよく晴れた日曜の午後だったような気がするな。日清カップヌードルを食べていたんだ。確かオリジナルの醤油味だった。

カップヌードルは1971年(昭和46年)の発売開始で、世界初のカップ麺。だからCMも意図的に国際志向だった。海外ロケで、外国人がプラスチックフォークで麺をすくって食べていたような映像が記憶に残っている。それも真っ青な空の下でね。

CMソングとして珠玉なのは、浜田省吾「風を感じて」、ロブバード「ボーンフリー・スピリット」あたりで、ハウンドドッグ「ff フォルティシモ」や中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」なんかもヒットしたね。浜省バージョンをYouTubeで見返してみると、「今日も地球は快晴」なんてナレが入ってるくらいだし、完全に刷り込みですね。

さて、件の秋の午後、流れていたのはザ・ローリング・ストーンズの名盤『スティッキー・フィンガーズ』。カップにお湯を注ぐと、カセットテープはB面の4曲目にさしかかる。そこから3分の間のありふれた出来事だ。

ちょっと横道にそれるが、オレらの世代はストップウォッチ並に3分をカウントできる世代なんだぜ、と自慢したい。カップヌードルより少し前に、「ボンカレー」のCMで「3分間待つのだぞ」という笑福亭仁鶴のセリフが流行語になった。この両者の挟み撃ちにあって、育ち盛りの胃袋は3分がどれだけ長いかを恐怖学習しているからね。

B面4曲目の「デッド・フラワーズ」はカントリー調の曲で、ミディアムテンポの穏やかなギターイントロから始まる。いつものようにJagger–Richardsのクレジットだが、実際に曲を作ったのはキースなんだろうなと今は思う。この頃よくつるんでいたグラム・パーソンズが、彼のソングライティングに影響を与えたと評されているからね。

オレはグラム・パーソンズのことはザ・バーズで『スイートハート・オブ・ザ・ロデオ』を制作したことくらいしかしらない。そんでもってこのアルバムがまた名盤で、カントリーミュージック=爽やかなアメリカの澄みきった空気というイメージをオレの脳裏に植えつけた張本人なのだよ。

And you can send me dead flowers every morning
Send me dead flowers by the mail
Send me dead flowers to my wedding
And I won't forget to put roses on your grave

心の声「いいねえ、サビのハーモニーがいいねえ。」
心の声「ウェディングでフラワーなんて、なんだかアメリカっぽいね。」
ちなみに歌詞カードはなく、リリックはほとんど聴きとれていない。

Well when you're sitting back
in your rose pink Cadillac
Making bets on Kentucky Derby Day

心の声「ケンタッキーの晴れた空の下なんだろうなあ。」

Ah, I'll be in my basement room
with a needle and a spoon
And another girl to take my pain away

一緒にいた友だちが突然歌い出す。なぜかここだけ。
「ウィズアヌードル・エナスプーン!」

そうここは友だちの部屋で、目の前にカップヌードルと先割れのプラスチックスプーンがある・・・

ああ、ストーンズの面々もカップヌードル食べながらこの曲つくったのかな、なんて都合のいい話をしながら友だちと一滴残らず完食した。それ以来ずっと、この曲のイメージはカップヌードルのCMのように、爽快なアウトドア風景とともにあった。

・・・この曲が、女に捨てられたダメ男くんの未練ソングで、友だちが声を張り上げた箇所は、ヘロイン摂取用の「ニードル(針)とスプーン」の描写であることはだいぶ後になって知った。真逆の真実に愕然となったが、「いい夢見せてもらったよ。あばよ」って心境だ。

引用箇所のかなりの意訳
毎朝送ってくれないか オレに枯れた花を
郵便でいいから送ってくれ 枯れた花を
オレの結婚式にも送ってくれ 枯れた花を
俺は忘れないから
オマエが死んだら その墓に薔薇の花束を捧げることを

オマエは座ってくつろいでる
ローズピンクのキャデラックの後部座席で
ケンタッキー・ダービーにいくらか賭けてるんだろう

でもオレがいるのは暗い地下の一室だ
注射器とスプーンがあるな
心の痛手をつかのま忘れさせるだけのオンナはいるがね


この記事が参加している募集

思い出の曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?