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イルカに乗ってマリコ

心がささくれ立っている。
年度末に加え、確定申告となれば気も立ってくる。
りんごが8こ みかんが4こ あります。4人で分けるとひとりいくつになります「じゃんけんしよーぜーーー」の私に数字なんぞは近付けないで欲しい。

仕事が終わって酒ものまずに書類に向き合っていると、普段スルーしている政治への怒りみたいなものも込み上げてくる。
よく覚えておりませんだと? 風呂上がりにすっぴんで枕元に立って、忘れられない夜にしてやろうか?
UNIQLOの黒い綿パン1枚で肩からタオル掛けた私って、長州力と大差ないのだよ。

不思議。こうやってやりたくもない書類に向き合ってると、色んなことが蘇ってくる。
長かった髪をバッサリ切ったのは、中学校に上がった時のこと。
ハーフアップかツインテールにしていた小学生時代を経て、中学で運動部に属した私は先輩たちのショートカットに憧れて美容室の門を叩いた。

平野レミそっくりの美容師さんが、オッケー任せて!と私の髪を一つに結ぶと、根元からジョキン!と切った。あまりに唐突で、すごくショックだった。
切るって言ったのは自分なのに、急に大切なものを失ってしまった気持ちになった。おまけに鏡に映る私は短い髪が全く似合っていない。喋ったら泣いてしまいそうで薄ら笑いなんか浮かべてた。
そんな私を余所に髪はどんどん切り整えられて、ケープを外しながら平野レミそっくりの美容師さんが言った。
「あらー!城みちるちゃんみたーーい」
誰やねんって、帰ってから母に城みちるって知ってる?って聞くと
「イルカに乗ってる」って。
その言葉で泣いたね。わんわん泣いた。
憧れたショートは似合わないわ、私から見たらよくわからないおじさんに似てて、そのうえそのおじさんイルカに乗ってるって、そりゃ泣きたくもなるよ。
それがね、中井貴一とかだったら私きっと泣かなかったんだよ。ちゃんとしてる感じある。でもさ、イルカに乗ってるって意味わかんないわけ、何イルカに乗ってんだよって、幼心にクソむかついて、ああ、あの頃から私って安定志向だったんだなって。
こうなったら、YouTubeで城みちるの「イルカにのった少年」を聴こうって検索したら、なぜか中島みゆきの悪女にたどり着いて、もう歌詞がすごいの。

マリコの部屋へ 電話をかけて
男と遊んでる芝居 続けてきたけれど
あのこもわりと 忙しいようで
そうそうつきあわせても いられない

女のつけぬ コロンを買って
深夜のサ店の鏡で うなじにつけたなら
夜明けを待って 一番電車
凍えて帰れば わざと捨てゼリフ

悪女になるなら
裸足で 夜明けの電車で泣いてから
涙ぽろぽろ ぽろぽろ
流れて 涸れてから

中島みゆき「悪女」より抜粋

これって昭和がすごいの?中島みゆきがすごいの?
この調子で恋愛してたら、生き霊とか怨念とか大方ここで生産されてる。この人たち枕元に立たせれば、わざわざ長州力が出ていくこともないんじゃないかって、昭和の熱量に圧倒されてたらコメント欄に
「悪女じゃ無いよね。 ただの意地っ張り。 こんな女に出会いたかった」って書いてあって、ちょっとーーーこの人すごくいい男なんじゃないのって。しかし、マリコよ。マリコに電話して芝居をする必要性とか、もしかしてマリコ気付いてたのかな?とか、マリコのロスタイムを思うとやってられないよなって、いけない、いつの間にかイルカに乗って昭和に飛んでた。

毎年こんなことして、全然進まないのよね。
みんなに心配かけて、禁酒宣言めいたこと言った私だけどごめん、ちょっとマリコと飲んでくるねー。


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