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冬は苦手、でも雪は好きだな。

東京に雪が降った。
朝のニュースで都内も大雪に警戒と言っていたけれど、毎回大袈裟なんだよねと聞き流していたら、本当に積もるほど降った。
そうだった。気象庁はいつも聞き流した時に限って予報を当てて、信用を取り戻している機関だった(違う)

二月の連休に行くはずだった山の予定が流れて、その後にAmazonで頼んでおいた軽アイゼンが届いた。
山頂付近は雪だねって頼んでおいたのだけど、この分だと使うのはまだまだ先になりそう。
Amazonの段ボール箱が届くと、熱帯雨林のジャングルなアマゾンで、褐色の少年がボートから手を振っている映像が浮かんでくる。ボートはスローモーションで進んで、少年はものすごく笑顔だ。
そして、届いた荷物にあんなに遠い場所からよく…と思ってしまう。
もちろんそんなワケないことはわかっている。
わかっているのに、テレビでどこかの村にAmazonが届いた時にも、あんなに遠くから…とつい思ってしまうの。これはもう病気だ。AmazonがAmazonである限りきっと治らない。

夕方、社長より交通機関がマヒする前に退社のお許しが出る。
自転車で来てしまった私は対象外らしかったが、自転車こそマヒだと訴えると、自転車を置いていくことが許された。なるほどなるほど。
仕方なく定時まで働く。

仕事中、母から何度もLINEが入る。
このことについては、再三にわたってやんわりと迷惑だということを伝えてきたけれど、効果がなく、ついには「女子高生じゃないんだから、普通そんなにLINEしないよ!」とはっきり告げてしまったこともある。
母はしゅんとして「わかったよ、控えるね…」なんて言うものだから、罪悪感に押しつぶされそうになったのだけど、母のLINEはものの2時間で復活を遂げた。
その後もグループLINEで姉が何度も「うるさい」とはっきり言っているにも関わらず、母はその都度しゅんとして、きっちり2時間で甦って来る。
I’ll be backのシュワちゃんだってこんなに戻ってこない。
その2時間の母の思考を知ることが出来れば「折れない力」とかいう本が出せるのかもしれない。

しかし、それに慣れてしまった今、あれ?今日全然LINEきてないんじゃない?と気付いた時、倒れたんじゃないか、そういえば風邪気味だって言ってたような…と逆に不安になってしまうこの手口。やり手だ。
姉と話し合い、安全確認とボケ防止に気の済むように喋らせておけばいいということになった。
返信は手が空いているほうがたまにするということで合意し、私はグループLINEの通知をオフにした。確認は朝昼夕くらい。

節分の日は「近所の人と豆まきに行ってきます」と連絡が入っていて、今日もその節分がとっても楽しかったのだという内容が送られてきた。
「楽しかったならよかった」と返信をすると「うん、袴まで履いてね」と返ってくる。
え?ハカマ?
「え、豆撒いたの?」と返すと姉も出てきて
「え?袴履いたの?」
「そうよ~。袋広げた子供たちやお母さんに向けて投げたのよ~」
「その写真ないの?!」
「見たかった!!」悔やむ二人。
迷惑と思いつつ、母の晴れ姿は見たい娘たちであった。

帰りに倉庫からひとつ軍手を拝借し、マフラーを頭から首にぐるりと巻いて自転車を押した。地面には随分雪が積もっているのに、どんな日も自転車と離れたくない。
ハンドルを握る手の平全面が黒いゴムタイプの軍手は、頑丈そうに見えるのに、逆に冷たいのだということを知る。繊維のぬくもりが欲しい。

誰も見ていない露地で雪を投げた。
手が冷たくてじんじんする。
むんずと掴んだ雪をもうひとつ投げる。
「鬼は〜外〜」
母もこんな風に投げたかな。
きっとすごく笑顔だったんだろうな。
雪玉は積もった雪の上に音もなく落ちた。

任される仕事が増えることは評価で、沢山送られてくるLINEに苛々してしまうのは義務を感じるからだ。
期待には答えなければならない?
そんなに気負わなくてもいいのに、いつの間に降り積もってしまうんだろうね。

街灯はいつも通り夜道を照らして、雪は空からどんどん落ちてくる。
時折、頭に肩に背中に積もっていく雪を犬のように身体をブルブルと揺すって落とす。
白い。吐く息も白い。
それに雪が音を吸収して、ものすごく静かだ。

大通りからゆっくりと車が路地に入ってくる。
タイヤがぎしぎしと雪を踏んで、路地全体が橙のライトに照らされる。運転する男性と目が合ったまま、通り過ぎるまでどちらも逸らさなかった。
どちら様ですか。そちらこそどちら様ですか。
山で動物を見かけた時のように、お互いが慎重だった。

私、山に行きたかったな。


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